ロシア疑惑から国民の目をそらす?
トランスジェンダーにかかる費用は、国防予算全体からみれば誤差の範囲で、「軍人の勃起不全のために、国防総省がバイアグラに使う額よりずっと少ない」と擁護派は訴える。
軍隊にトランスジェンダーを受け入れているのは、世界で18か国。米軍の調査によれば、それによる悪影響はとくに報告されていないという。シャワールームにカーテンを付けるなど、必要に応じて対策が取られている。
保守派キリスト教徒らのなかには、同性愛やトランスジェンダーは「罪」であり、神の許しを乞うべきだと信じる人も多い。これは「精神疾患(mental disorder)」であり、「治療すべきもの」だと主張する専門家も珍しくない。トランスジェンダーの人たちの自殺率の高さを挙げ、「兵器を持たせるのは危険だ」と指摘する声もある。
これに対して擁護派は、「自殺率の高さは、家族や社会にアイデンティティを拒絶され、差別やいじめ、ハラスメントなどに苦しんだことに起因している」と主張する。
トランプ大統領がツイートした夜、ニューヨークではタイムズスクエアに数百人が集まり、デモが行われた。
「Trans Rights Are Human Rights(トランスジェンダーの権利は人権だ)」、「RESIST(抗議せよ)」などと書かれたプラカードを掲げ、反対の声を上げた。
トランスジェンダーの元軍人も駆けつけ、「私はこの国を愛しています」と訴えた。
「戦場で戦った経験のないトランプ氏に、国に命を捧げる意味がわかるはずがない」という声も聞かれた。
「トランプ大統領の今回の唐突なツイートは、ロシア疑惑などから国民の目をそらすためか」との憶測も飛び交う。
時代の流れに逆行するかに見えるトランプ大統領の発言に、アメリカの分裂が再び浮き彫りになった。
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。