人類の祖先はそもそも樹上生活をしていたことはよく知られているが、なぜ樹上から地上へと降りたのかは謎が多い。
900 万年前以降に地球の乾燥化が進み、アフリカの森林面積が減少したためより広く開放的な地上で生活するようになったとする説が主流となっており、その影響で二足歩行をするようになったとする「サバンナ仮説」として知られている。
樹上は地上より5度以上暑い
ところが京都大学の報道発表によると、近年の調査研究で発見された初期の人の化石は熱帯林や木がまばらな明るい森林で発見されており、しかも直立二足歩行をして部分的に地上生活までしていたことが確認されているのだ。
つまり、樹上生活をやめて地上生活に至ったわけではなく、樹上生活をしていたころから地上生活もすでに始まっていたことになる。こうなると、森林が減少したから地上に降りたという仮説は成り立たなくなってしまう。
なぜ人は地上に降りたのか。京都大学霊長類研究所の竹元博幸氏はその理由を、現在森林に生息しているチンパンジーやボノボの生態を観察することで解明できないかと考えた。
観察の結果、両種とも気温の高い日には1日の半分以上地上にいるのに、気温の低い日にはほとんど樹上で過ごし地上に降りてこなかった。また、季節変化の大きいアフリカの森林に住んでいるチンパンジーに比べ、季節変化の少ない中央アフリカに住んでいるボノボは地上生活時間が短かったという。
ヒトを含め多くの動物はエネルギーの大半を体温維持に使っている。熱帯林の場合、地上と樹上では最低でも 5℃以上の気温差があるとされており、寒い雨季には暖かい森林の上部、暑い乾季には涼しい地上で過ごすことはエネルギー節約として重要だ。
当初は温暖で湿潤な熱帯雨林の樹上で生活していた我々の祖先も、乾季の出現によって暑さを感じるようになり、地上にも降りるようになったと考えられる。
仮に乾燥化が進んで樹上生活ができなくなったとしても、ある瞬間から急に地上生活ができるようになるわけではない。竹元氏は、
「森林が後退したあと、樹が点在する開けた環境に適応できたのは、森林内ですでに季節的な地上生活を経験していたからだと思われる」
としている。祖先が涼を求めてくれたおかげで、我々はいつまでも木の上で暮らさずに済んだのかもしれない。