日本と欧州連合(EU)が経済連携協定(EPA)締結に合意した。交渉の焦点は欧州からのチーズ、日本からの自動車への関税だったが、撤廃・削減などで折り合った。2019年中の発効をめざしており、「米国第一」を唱え保護主義に走る米トランプ政権に対抗する形で、世界の人口の8.6%、国内総生産(GDP)の3割弱を占める巨大な自由貿易圏が誕生する。
この合意は、大手紙もこぞって評価している。ただ、今回は「大枠合意」という聞きなれない表現が使われ、なりふり構わず交渉妥結に持って行った印象も拭えない。
朝日新聞も賛辞
合意の主な内容は、(1)欧州から日本へのチーズ輸出は、カマンベールなどソフトチーズを中心に低関税で輸入する枠を新設し、初年度2万トンから16年目の3万1000トンまで拡大、(2)チーズの関税率を段階的に下げて、輸入枠内を16年目に無税に、(3)日本から欧州へ輸出する乗用車にかかっている10%の関税を7年かけて順次下げ、8年目に無税に、(4)自動車部品の92.1%(貿易額ベース)の関税を即時に撤廃、(5)日本酒や日本産ワイン・ウイスキー、牛肉などの関税は即時撤廃、(6)欧州産ワインの関税即時撤廃、(7)欧州からのパスタやチョコレートを段階的に無税に――など。
交渉は2013年から始まり、4年越しの難交渉になった。双方、国内の突き上げを受ける品目で譲歩を迫り、迫られたからだ。しかし、トランプ政権の環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、英国のEU脱退という逆風が、逆に日欧双方の「自由貿易の意義を世界にアピールするためにも合意しよう」という気運を高めた。
大手紙も、今回の合意を評価。日ごろ安倍晋三政権に厳しい論調が目立つ朝日も「大型の通商協定を歓迎する。日本とEUは保護主義の広がりに歯止めをかけ、貿易自由化を進めるため、さらにリーダーシップを発揮してほしい」(7月7日社説)と賛辞を惜しまない。
ただ、「大枠合意」という言い回しには疑問がある。TPPをはじめ、日豪EPAなどこれまでの通商交渉では最終決着の前に「大筋合意」という言葉が使われてきた。「最終的に協定の文言確定までに、法的に精査するなど技術的な作業を残しているが、実態はほぼ100%合意した状態」(通商関係筋)。TPPの場合、大筋合意の段階で、全31分野で対立は解消していた。
これに関して今回の日欧EPAの「大枠合意」は大筋合意より、交渉段階として「かなり手前」(同)という。積み残した問題はあっても、互いに関心の高い主要テーマ(日本の自動車、EUのチーズなど)で妥協が成立し、「山を越えた」ところで「交渉妥結」をアピールするために「大枠合意」という言い回しが使われたというわけだ。
協定発効は数年先というのが大方の見方
実際、関税は概ね決着したが、調整が難しいテーマの決着は先送りされた。代表的なものが、進出した企業とその国との紛争処理手続き。進出先の急な制度変更で企業が損害を被ったような場合の賠償をめぐる手続きについて日欧の主張は平行線をたどった。「大枠合意」になったのは、こうした折り合いがつかない項目が残ったからだ。
日欧交渉を報じる記事を振り返ると、2016年中は「大筋合意を目指す」など、「大筋」だったが、2017年が明けて1月から、各紙の紙面では「大枠合意」という言葉に取って代わられた。安倍首相が2016年暮れに「大枠合意」という単語に初めて言及したのがきっかけだった。
関係筋は、1月のトランプ大統領就任をにらみ、日欧が結束して自由貿易の推進をアピールしたいという思惑で、双方が一致したことが背景にあり、「5月の主要7か国首脳会議(G7サミット)、そして7月の20か国・地域(G20)首脳会議の開催地が、それぞれイタリアとドイツであることもあって、この場での妥結をにらんだ交渉スケジュールを模索した」という。
最終的な交渉は、5月下旬、G7サミットのため訪欧した安倍首相とEU首脳との会談で早期合意を確認し、6月に詰めの交渉をするという日程を設定。6月13日からEU側首席交渉官が来日、30日、7月1日には閣僚協議も行い、7月5日に閣僚協議を欧州で再開し、決着した。
「日欧でかなり無理を承知で『妥結』に持って行った『作戦勝ち』は評価できるが、最終的な合意には、曲折が予想される」(大手紙経済部デスク)。さらに、EU側は加盟28か国が承認する必要があり、協定発効は数年先というのが大方の見方。チーズやワインが安くなる、といった消費者がメリットを享受するまでには、なお時間がかかりそうだ。