独高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」が、ディーゼル車の排ガス不正疑惑に揺れている。独メディアが疑惑を報じると、ベンツを展開する独ダイムラーは、不正を否定しつつも、大規模な無償修理に乗り出すと発表した。不正がないと証明されれば、会社側の対応は評価されるだろう。しかし、もし不正が認定されれば、これまで築いてきたブランドイメージは大きく損なわれ、今後の販売に影響が及ぶのは必至だ。
発端は2017年7月12日の南ドイツ新聞電子版だった。独ダイムラーが100万台以上のディーゼル車で違法な排ガス操作をしていた疑いがあると報じた。独検察当局が5月下旬に同社拠点を家宅捜索したという。
「試験の時だけ有害物質を減らす装置をつけていた」との報道
2008年~16年に欧米で販売されたベンツの主力車種でディーゼルエンジンに問題があり、規制を大幅に上回る有害物質が排出されている、というのが疑惑の中身で、同紙は試験の時だけ有害物質を減らす装置をつけていたとも指摘した。
この報道から1週間もたたない7月18日、会社側は欧州でディーゼル車300万台以上を無償修理すると発表した。300万台といえば、トラックやバンを含めたダイムラー全体の年間世界販売台数に匹敵する規模だ。費用は2億2000万ユーロ(約280億円)を見込んでいるという。
会社側は、排ガス不正疑惑報道とは関係なく、自主的な判断だと強調。「ディーゼル車の顧客が不安になっているので、安心させるための措置だ」としている。顧客の不安をいち早く察知し、迅速に行動した点で、優れた危機管理対応といえるかもしれない。
しかし、今後の捜査の行方次第で、評価は正反対になる恐れもある。2015年9月に排ガス規制逃れの不正が発覚した独フォルクスワーゲン(VW)は大きな打撃を受けた。世界で約1100万台のリコールに踏み切り、車の所有者や当局に払った和解金などは兆円単位にふくらんだ。販売も不正発覚後に失速し、15年のグループ販売台数は前年に達成した1000万台を割り込んだ。