魚介類を生で食べて、寄生虫が原因の食中毒になるケースが毎年報告される。最近ではアニサキスが知られるが、寄生するのは海水魚だ。実は河川などにすむ淡水魚の場合、生食による寄生虫の危険度は非常に高い。
東南アジア・タイの東北部では、地元民が長年食べてきた生魚のミンチ料理が、肝臓がんを引き起こす寄生虫を体内に取り込む元になっていたようだ。
日本の天然淡水魚には横川吸虫や顎口虫、肺吸虫がいる
肝吸虫という寄生虫がいる。神奈川県水産技術センター内水面試験場のウェブサイトの説明を見ると、日本や中国、東南アジアに分布しており、日本では戦後まで多くの感染者がいた。「成虫は胆管枝に寄生するため、胆汁のうっ血を起こし、黄疸や腹水などを併発する。慢性期には肝硬変になる」という。
タイ東北部の伝統的な生魚料理「コイプラ」が、いわば肝吸虫の温床となっているようだと、2017年7月18日付のAFP通信の記事が紹介している。コイプラは、地元の池で採った魚を生のまますりつぶし、トウガラシやライムをかけて食べる。近年この地域では、胆管細胞がんの発症例が世界で最も多く報告されている。両親を肝臓がんで亡くした医師が調査し、昼食として食べ続けられてきたコイプラに疑いの目を向けたのだ。肝吸虫は、イサーン地方の淡水魚の多くにみられる。
国立感染症研究所のサイトには、タイやラオスの山間部で、たんぱく源として重要な魚料理を介して肝吸虫に感染することがあるとの記述があった。
日本人も淡水魚を食べる機会はある。コイやイワナ、アユにシラウオと種類も豊富だ。基本的には養殖で、寄生虫対策を万全にした魚が使われる。だが、河川で釣った魚をそのままさばいて生食したいと考える人がいるかもしれない。日本の天然の淡水魚にも、寄生虫がいることを知っておいて損はないだろう。
東京都福祉保健局のサイト「食品衛生の窓」には、生鮮魚介類による寄生虫が紹介されている。例えば天然のアユやシラウオ、ウグイに寄生する横川吸虫は、多数が寄生した場合に腹痛や下痢を起こす。ドジョウやヤマメに見られる顎口虫は、体内に入ると幼虫のまま皮下を移動し、皮膚がみみずばれになったりする。サワガニやモクズガニには、肺吸虫が寄生している。これは「気胸を起こし、胸膜炎による胸水貯留が認められることが多くあります」。
なお肝吸虫については、先述の神奈川県水産技術センター内水面試験場サイトによるとコイ、フナ、ウグイ、オイカワ、ドンコといった魚に見られる。
在日外国人が母国と同じ食習慣をしようとした結果...
厚生労働省が公表している、2017(平成29)年食中毒発生事例(速報)によると、寄生虫による食中毒はアニサキスとクドアによるものだけだ。一方、東京都が2017年7月15日時点で発表している食中毒発生状況では、寄生虫が原因による患者数についてアニサキスが2017年1月からの累計で19人、クドアが14人、シュードテラノーバが1人となっている。クドアはヒラメの、またシュードテラノーバはアンコウやタラ、イカといった魚介類の寄生虫だが、いずれも海水に生息するものだ。
ただし国立感染症研究所では、過去のこんな事例を紹介している。「日本国内では、在日外国人が母国と同じ食習慣でサワガニやモクズガニを生食した結果、肺吸虫に集団感染するという例が報告された」。また、海外からの帰国者が受診した医療機関からの報告では、問題となる寄生虫の症状は下痢や腹痛といった消化器症状をもたらすものが多いという。夏休みに入り海外旅行に向かう人は多いだろうが、旅先での食事には注意を払いたい。