糖尿病の男性患者に勃起不全(ED)になる人が多いことが知られている。「糖尿病性勃起不全」という症状名があるほどだが、どれだけの頻度でなるかは明らかではなかった。
フランスのマリティン病院のチームが、糖尿病患者の約52%がEDになるという研究を糖尿病専門医学誌「Diabetic Medicine」(電子版)の2017年7月18日号に発表した。
生活習慣悪化型の2型では66%の男性が
同誌の論文要約によると、EDになる糖尿病患者は、これまでの様々な研究から3~8割いるといわれるが、正確に大規模な統計をとったデータはなかった。そこで研究チームは、2016年11月以降に報告された、糖尿病患者のEDに関する最新の世界中の論文145件を分析した。対象の男性患者は23~72歳の8万8577人(平均年齢56歳)に達した。145件の論文では、EDの有病率は35~80%とまちまちだった。研究チームは、EDかどうかを示す「国際勃機能スコア」を用いて改めてEDの有病率を調べた結果、52.5%がEDだった。これは糖尿病ではない男性に比べ、3.5倍高いという。
糖尿病にも1型と2型がある。1型はすい臓のβ細胞が壊れてしまい、まったくインスリンが分泌されなくなる。インスリンを体外から補給しないと生命に関わるためインスリン注射が欠かせない。2型は、肥満・運動不足・ストレスなどの生活習慣をきっかけに発病する。糖尿病患者の大半が2型だ。1型と2型のEDになる頻度を比べると、1型は37.5%、2型は66.3%と、生活習慣の悪さから糖尿病になる人の方が高かった。また、人種・地域間の差も大きく、一番高いのがアフリカ・オセアニアの71~75%、次いで日本人を含むアジアが67%、欧州が54%、北米が35%だった。
今回の調査はあくまで「観察研究」であり、研究チームは論文の中で「糖尿病の男性患者にはEDに関する適切な治療が望ましい」とコメントするだけで、なぜ糖尿病患者にEDになる人が多いのか明らかにしていない。
高血糖による血管と神経の障害が原因
いったいなぜ糖尿病患者はEDになりやすいのだろうか。糖尿病患者と医療者のための情報サイト「糖尿病ネットワーク」の「糖尿病の人の性」では、こう説明している(要約抜粋)。
「糖尿病の患者は血糖値が高くなります。高血糖状態が続くと、血管障害が起こり血液の流れが悪くなり、神経障害も起こります。EDの原因はこの2つが大きく関連していると考えられます。陰茎内部には、海綿体というスポンジ状組織があります。海綿体は性的刺激を受けると、自律神経の働きで内部の動脈が広がり、多量の血液が送り込まれ、スポンジの膨脹が始まります。同時に、海綿体内の血液の出口にあたる静脈が、海綿体自体の膨脹により圧迫され血液が流れにくくなります。こうして海綿体は、血液が溜め込まれて膨脹した状態を維持します。これが勃起状態です」
「糖尿病で血管障害や神経障害があると、この一連の現象がスムーズに起こらず、全く勃起しない、起勃しても硬さが十分でない症状が現れます。健康な男性でも高齢になるにつれ血管障害、神経障害が進み、勃起能力が衰えますが、糖尿病では障害のスピードが加速されてしまうのです」
そして、糖尿病の男性にはこう呼びかけている。
「糖尿病のほかの合併症に比べ、性機能障害はわかりにくい症状で、実際に治療を受けている人は少ないのが現状です。恥ずかしがらず、積極的に医師に相談しましょう。最近の医学の進歩によって、性機能障害の多くは治療可能になっています」