バイオリン54丁と弓70本を壊したとして、30代女性が逮捕された事件が2017年7月25日に報じられた。ところが、このニュースに、
「一番驚いたのはバイオリンの数え方が『丁』ってことだよ」
といった感想がツイッター上で相次いだ。
確かに、この事件の報道を見ると、少なくないメディアが「バイオリン54丁」という表記を用いている。一方で、これ以外の表記を使うところも。「丁」のように、数量を表す際に用いる助数詞は「個」「本」「回」「人」など日本語にはたくさんある。バイオリンはどう数えるのが正解なのだろうか。
新聞社同士でも表記が異なる
数えるものが何かによって、どの助数詞が使われるかはある程度決まっているが、どれを使うか悩ましいものもある。今回のバイオリンもそうだろう。
話題となっているのは2014年、30代女性が、別居中の夫のバイオリン多数を破壊した事件。主要メディアでも表現が分かれている(いずれもウェブ版、25日昼現在)。
丁:NHK、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、時事通信社、日本テレビ、テレビ朝日
本:産経新聞、共同通信、ロイター
なかには当初、「台」と報じたメディアもあったようだ(すでに修正済み)。
いったい、「丁」と「本」はそれぞれ何が違うのだろうか。『広辞苑 第6版』(岩波書店、2008年)によると、「丁」にはこう説明がある。
「(4)書籍の紙数を数える語。表裏2ページを1丁という。
(5)豆腐を数える語。
(6)銃や道具などを数える語。
(8)料理・飲食物を数える語。」
このなかでバイオリンが当てはまるのは、(6)の「道具」だろうか。また「梃・挺」が「丁」と書かれることもあり、これらは、
「鋤・鍬・墨・銃・蝋燭・艪・駕籠・人力車などを数える語」
として用いられる。
次に「本」。上述のメディアのほか、スポーツ紙でも「本」が使用されていた。
「(6)棒状の長いものを数える語。
(7)芝居・映画・小説・記事などの作品の数を数える語。
(8)手紙や電話をかける回数などを数える語。
(9)柔剣道などの勝負を数える語。
(10)スポーツで、得点や採点の対象となる試技を数える語。」
バイオリンを「棒状の長いもの」と捉えるかどうかが争点となりそうだ。
『広辞苑』でははっきりとした答えは得られなかったが、どちらも間違いではなさそうだ。ちなみに、「台」は「大型の家具や楽器、車・機械などを数える語」なので、バイオリンの場合は適切とは言い難いだろう。
新聞向けの表記ルールをまとめた『記者ハンドブック 第13版』(共同通信社、2016年)でも、「バイオリン」の助数詞は「本・丁」とされている。余談だが、ギターも「本」のほか、「丁」が指定されている。