ほどほどの酒は健康によいという研究は多くあるが、ビールを飲むと白血病になるリスクが6割以上減るという、左党にはうれしい研究がまとまった。
国立がん研究センターが、白血病を引き起こす「骨髄異形成症候群」(MDS)の発症リスクと、飲酒・喫煙習慣との関係を調べた結果、酒をよく飲む人は発症リスクが低いことがわかった。ビールのホップに含まれる成分が骨髄異形成症候群に対する免疫力を高めているという。
毎日中ビン2本飲むと、白血病リスクが6割減
この研究成果は、英医学誌「British Journal of Haematology」(電子版)の2017年7月19日号に発表された。国立がん研究センターのウェブサイト「がん情報サービス」をみると、骨髄異形成症候群をこう説明している(要約抜粋)。
「骨髄では血液細胞のもとになる造血細胞が作られます。この造血細胞から赤血球、血小板、白血球が分化して作られますが、骨髄異形成症候群は原因が不明ですが、造血細胞に異常が起こる病気です。このため、赤血球、血小板、白血球にも異常が起こり、急性骨髄性白血病に移行することがあります」
白血病の原因の多くは、この骨髄異形成症候群によるものだという。
同研究センターの発表資料によると、研究チームは岩手県から沖縄県まで全国9保健所管内に住む40~69歳の男女約9万5000人を対象に最長27年間(平均18年間)追跡し、飲酒・喫煙習慣と骨髄異形成症候群の発症リスクとの関係を調べた。対象の9万5000人には飲酒や喫煙、食生活に関する詳しい聞き取りデータがあった。調査期間中に70人(男性50人、女性20人)が骨髄異形成症候群と診断された。
飲酒の習慣については、対象者を次の4つに分けた。
(1)お酒を飲まない人(飲んでも月に1回未満)。
(2)時々飲む人(月に1~3回)。
(3)飲む人(エタノール換算で週に300グラム未満)。エタノール300グラムの酒類は、ビール中ビン15本分、日本酒15合分。
(4)かなり飲む(エタノール換算で週に300グラム以上)。
その結果、「飲まない人」の発症リスクを「1」とすると、「時々飲む人」は「0.48」(52%減)、「飲む人」は「0.37」(63%減)、「かなり飲む人」は「0.49」(51%減)だった。毎日ビールを中ビンで2本程度飲む人の発症リスクが一番低かったわけだ。
この結果について、研究チームは発表資料の中でこう説明している。
「飲酒が骨髄異形成症候群のリスクを下げるメカニズムとしては、アルコール自体による免疫力の向上や、ビールに含まれるキサントフモールによる抗白血病効果などが考えられます」
前立腺がん予防には毎日大ビン17本飲まないと...
キサントフモールとは、ビールの原料になるポップに含まれているポリフェノール(抗酸化力のある植物由来成分)で、多くの健康効果が知られている。2006年に米オレゴン州立大学が、キサントフモールには前立腺がんの予防効果があると発表した。ただし、マウスに粉末を与えて効果があった量をビールに換算すると、1日に大ビン17本を飲む必要があった。
2012年には北海道大学が、キサントフモールには悪玉コレステロール減らして善玉コレステロールを増やす働きがあり、動脈硬化の予防効果があると発表した。こちらは普通の量でもOKだったが、研究チームの千葉仁志教授は、同大のウェブサイト「いいね!Hokudai」(2013年3月6日付)の中でこう警告している。「ビールの飲みすぎはコレステロール値を高めるのでオススメできません。キサントフモールをサプリ飲料などの形で摂取することを勧めたい」。
2015年には中国蘭州大学の研究チームが、キサントフモールには認知症のアルツハイマー病を予防する効果があると発表している。いずれにしろ、左党を喜ばせる結果だ。
さて、骨髄異形成症候群の研究に話を戻すと、喫煙習慣のある人はリスクが高まった。タバコを吸わない人の発症リスクを「1」とすると、吸っている人のリスクは約2倍の「2.11」になった。研究チームは「喫煙にはもともと多くのがんや疾病の発症リスクがある」と指摘している。せっかくビールを飲んでも、タバコを吸いながらでは元も子もなくなるということだ。