ヒアリの脳を食べながら生かしておくゾンビバエ
ゾンビバエは、ヒアリよりはるかに小さいが、恐ろしい能力を持っている。ゾンビバエの腹部には曲がったトゲのようなものがあり、このトゲをヒアリの体に突き刺して一瞬のうちに卵を産み付けることができる。1匹のハエの体内には約200個の卵がある。ゾンビバエの卵がヒアリの体内で孵化して幼虫になると、ヒアリの体液を吸って成長し、息の根を止めるのだが、その方法が何とも不気味だ。
ポーター博士は、実験室でゾンビバエがヒアリの群れを攻撃する様子を見せた。ゾンビバエがヒアリの上を飛び回ると、ヒアリはパニックを起こす。あごをゾンビバエに開いて威嚇するが、ゾンビバエは一瞬のすきをついてヒアリの背中にトゲを刺す。卵が注入されたのだ。ここから先はCG(コンピューターグラフィック)の映像。孵化したゾンビバエの幼虫は、ヒアリの体液を吸いながらヒアリの頭に向かって移動する。幼虫が2週間かけて頭に到着する間、ヒアリの行動には特に変わった様子は見られない。
しかし、頭に入り込んだ幼虫はヒアリの脳を食べる。そして酵素を分泌してヒアリの首をポロリと落としてしまう。その落ちた頭の中から成長したゾンビバエの成虫が現れる映像(実写)はかなりグロい。
ポーター博士「興味深いのは、幼虫がヒアリの頭の中で成長し始めると、ヒアリの行動までコントロールしてしまうことです。脳を食べられたヒアリは、死んだのも同然なのに動いています。ゾンビのようなものです。ゾンビバエという名前はそこから付けられました。幼虫が成虫になると、別のヒアリに卵を産みつけ、ヒアリの数は次第に減少していきます。このように害虫を駆除する昆虫を生物農薬と呼びます。ヒアリが減少すれば産卵場所を失ったゾンビバエも自然に数が減るため、生態系のバランスを乱す心配はありません」
しかし、効果の及ぶ範囲が狭いため計画を成功させるには大量のゾンビバエを放つ必要がある。そのゾンビバエの確保が今後の課題だ。