2017年7月16日から20日にかけて英ロンドンで開催されていた第29回国際アルツハイマー病会議(AAIC)において、世界五大医学雑誌のひとつ「ランセット」の委員会が「世界の認知症発症例の3分の1以上が特定の生活習慣の改善によって予防可能である」とする声明を発表した。
AAICも高い期待を寄せており、声明の内容は非常に有望で単純な生活習慣改善によって、認知機能低下や認知症のリスクを減らす可能性があるとコメントしている。
個人レベルでも改善できるリスク要因は
AAICのプレスリリースによると、ランセット委員会の今回の声明は同誌に掲載されたアルツハイマー病や認知症に関する研究論文を24人の専門家が、「個人レベルでも改善が容易で予防に取り組みやすいか」という視点から徹底的に分析、評価した結果に基づいている。
こうして、信頼性の高い十分なエビデンス(科学的根拠)が確認されたと認められたのは9つの要因だ。各要因は一部を除いてライフステージ別に発生するとされており、大きく4段階に分かれている。
(1)初期:15歳までの中等教育を修了していない
(2)中年期:肥満、難聴
(3)高齢期:早期治療に取り組んでいないうつ病、2型糖尿病、低い活動量、社会的孤立
(4)すべてに共通:高血圧、喫煙習慣
ランセット委員会はあらゆる人種の集団を含めたデータから、世界の認知症全症例の約35%がこの9つの要因のいずれかに起因しており、各ライフステージでこれらを改善することで世界中の認知症患者数を100万人以上の減少させることができると指摘。
「難聴」は認知症のリスク要因としては比較的最近になって注目され始めたが、委員会は全要因の中でも高い発症要因になっているという。
なお認知症との関係が指摘される「食事」「飲酒量」「視覚障害」「大気汚染」「睡眠」についてはエビデンスが不足しており、今回の声明には含まれていない。
2050年までには認知症患者900万人減も可能
ランセット委員会の声明の筆頭著者となっているユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのジル・リビングストン教授はこれらの要因の改善によってすべての認知症が解決されるわけではないが、継続的に取り組むことで大きな違いを生み出す可能性があるとコメント。
「発症の抑制はできなくても発症を遅らせることができることも確認されており、仮に世界中で1年遅らせられれば2050年までには認知症患者を900万人減少させられるかもしれない」
とまで話していた。
声明では個人レベルの取り組みだけでなく、国や政府機関が公衆衛生の向上政策として取り組む必要もあると指摘。幼児教育の段階から充実させ中等教育の修了率を高める、聴力検査を継続的な健康診断として提供するといった介入に乗り出すよう要請している。