走って逃げることができない植物は、草食の動物に対し、あの手この手で身を守っているが、底なしの食欲を持つイモムシ同士に共食い行為をさせて葉を食べられないようにする植物がいることがわかった。
この世界初の衝撃的な発見をしたのは米ウィンスコンシン大学の研究チーム。環境と進化の専門誌「Nature Ecology and Evolution」(電子版)の2017年7月10日号に発表した。
植物同士は警戒信号を出し合い防衛条約
これまでも植物は、体の一部が動物や虫に食べられると、近隣の植物に警戒信号として作用する化学物質「ジャスモン酸メチル」を放散することが知られている。ジャスモン酸メチルを受け取った他の植物は、自分の葉をまずくする成分を生成し食べられないようにする。そして、自分も警戒信号を放散し、周辺の植物全体がジャスモン酸メチルで充満する。
中には、虫がサクサクと葉を食べる「咀嚼(そしゃく)音」を出すと、植物がそれを察知して、虫が嫌う辛味成分を含む油を分泌したり、虫の天敵を呼び寄せる化学物質を出し、天敵に虫を食べてもらったりする例も報告されている。
米ウィンスコンシン大学のプレスリリースによると、研究の中心になったのは同大のジョン・オロック准教授(動物学)。オロック准教授らは植物の防御メカニズムを調べるため、トマトの木にジャスモン酸メチルを散布、ガの仲間の幼虫をトマトの葉に置き、行動を観察した。すると、トマトが葉の味をひどくまずい味に変えたのか、あるいは栄養価を低くしたのか、イモムシの多くは葉を食べなくなった。そして大きなイモムシが小さなイモムシを襲い、共食いを始めた。
一方、ジャスモン酸メチルを散布しないトマトの葉にイモムシを置くと、かなりの葉がイモムシに食べられた。葉の被害は、ジャスモン酸メチルを散布したトマトに比べ、約5倍の量に達した。オロック准教授らは、共食いをしたイモムシと通常の葉を食べたイモムシの成長速度を比較した。すると、ほとんど差がなかった。つまり、イモムシにとっては葉を食べても仲間を食べても成長は同じだから、葉が食べられない場合は、ほかの葉を探すエネルギーロスをするより、仲間を食べた方がコストパフォーマンスはよいことになる。