痴漢被害をVR(仮想現実)でリアルに体験できる異色のコンテンツを、国内のITベンチャー「VR IMAGINATORS」のメンバーらが開発した。男女問わず誰もが「痴漢をされる側」の気持ちを体験することで、痴漢という犯罪に関する理解を深める狙いがあるという。
痴漢被害に遭う女性や加害者の男性などの役柄を、モーションキャプチャー技術を利用したリアルなVR世界で体験できるコンテンツだ。開発リーダーの金春根(きむ・はるね)さんは取材に、「異性との相互理解や犯罪抑止にも使用できるツールになった」と話す。
体験者「体を触られる嫌悪感や不快感は新感覚」
通称「痴漢VR」と呼ばれるこのコンテンツの正式名称は「事件再現VTRメーカー」。金さんが代表を務める「VR IMAGINATORS」の開発メンバーを含む「夜のくまさん」チームが、2017年7月9日に都内で行われたVR関連の「ハッカソン」(複数のエンジニアが集まって、特定の期間内にコンテンツを開発するイベントのこと。ハックとマラソンを合わせた造語)で開発したものだ。
利用者が体験できるのは「痴漢被害に遭う女子高生」、「痴漢をするひげ面の男性」、「痴漢行為の目撃者」の三役。いずれの役でも、360度の視界を映像で再現する専用ゴーグルを身に着け、電車内の様子を再現したVR世界に没入する。
痴漢役は体の動きを映像に反映するモーションキャプチャーデバイスを装着。現実世界で被害者役(主に男性)の尻や胸を触ると、手の動きにVR映像が連動し、本当に女子高生を痴漢しているように感じられる。
一方、被害者役はVR映像の中では女子高生に扮しているが、男性であってもリアルな痴漢被害を体験できる。目撃者役は、痴漢行為を「止めに入る」体験ができるという。また、体験したVR映像は録画され、360度様々な方向からチェックすることが可能だ。
この「痴漢VR」を開発した金さんは19日のJ-CASTニュースの取材に対し、イベントで実際にコンテンツを体験した男性の多くは、
「痴漢に体を触られる嫌悪感や不快感は新感覚だった」
と驚いていたと話す。
「社会問題として提起できるコンテンツ」に
なぜ、痴漢を体験できるVRコンテンツを開発しようと考えたのか。金さんは取材に対し、
「ほとんどの男性にとって、痴漢をされることは一生ありません。そこで、痴漢される側の気持ちが理解できるという、社会問題として提起できるコンテンツを考え付きました」
と話す。こうしたアイデアを膨らませて開発したのが、今回の「痴漢VR」だという。
コンテンツの狙いは、(1)痴漢問題に関する男女の相互理解を深めること(2)様々な角度からリアルに痴漢の状況を再現できることから、犯罪抑止の目的でも活用できること――の2点。今後の展開について聞くと、
「まずはコンテンツの改良を進めていきたいです。現状では、モーションキャプチャーの装着などの準備に時間がかかってしまうのですが、それを改良し、より多くの人が簡単に体験できる形にできれば。また、今回は痴漢でしたが、殺人事件などもVRで再現し、よりリアルな形で現場の状況を検証できるようなシステムにも応用できるかな、と考えています」
と話す。その上で、「ひとまずは、犯罪抑止キャンペーンなどのイベントでも積極的に展示利用できるようなツールを目指していきたい」との抱負を語っていた。