【羽鳥慎一モーニングショー】(テレビ朝日系)2017年7月19日放送
「老老介護の実情と不安」
認知症の妻・大山のぶ代さん(83)を献身的に介護してきたタレントの砂川啓介さんが、80歳で亡くなった。自ら尿管がんを抱えながら「老老介護」に奮闘していたが、病魔には勝てなかった。
高齢者夫婦それぞれが介護者、要介護者になる例は、決して珍しくなくなっている。介護者ひとりですべて抱え込むと、行き詰まってしまう。周囲の理解を促し、素直に助けを求める姿勢が必要だ。
認知症「そんなはずはない」と誰にも言わず
大山さんは2008年に脳梗塞を発症したのがきっかけで認知症の症状が出始め、12年にアルツハイマー型認知症と診断された。砂川さんがこの事実を公表したのが15年。この間に砂川さん自身が胃がんの手術を受け、さらに16年には尿管がんを患った。
「ドラえもん」の人気声優だった妻が認知症と診断された現実に砂川さんは戸惑い、「そんなはずはない」と人には絶対言わなかったという。介護生活を誰にも打ち明けられず、ひとりで抱え込んでいた。
一方で、介護は壮絶だった。26年間も声を務めた「ドラえもん」をテレビで見ても、大山さんは無反応。料理はレシピ本を何冊も出すほど得意だったが、ある日料理を詰めた容器を、冷蔵庫ではなくリビングの引き出しに入れていた。さらに、台所で鍋を空だきして危険な状態になった。このとき大山さんは、鍋のすぐ横で懸命に野菜を切っていた。危ないという意識が欠落していたのだ。
日常生活は苦労の連続だ。2人で外出すると、突然大声で叫ぶ大山さん。「誰かに触られた」と怒るが、そんな事実はなく砂川さんは通行人に平謝り。ある夜は、自宅の衣裳部屋で「3人の子どもがいる」とブツブツ1時間以上しゃべり続けた。深刻だったのは排せつだ。
まず、トイレに間に合わない。間に合っても便器の外にしてしまう。用を足した後にお尻を拭かない。こうした始末はすべて、砂川さんひとりでしなければならなかった。
元気なうちに準備しておくべき2点
淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博氏は、認知症になると記憶の整理がうまくいかない状態となるが、実際は問題行動でも本人は通常の正しい行為だと思っているため、周りに止められるとフラストレーションがたまると説明する。むやみに叱ったり否定したりせず、いったん受け止めて話し合うのが認知症ケアで重要だと話した。
だが、大山さんとたったひとりで向き合い、四六時中あらゆる行動に目配りしていた砂川さんの心労は、どれほど大きかっただろうか。実際に酒量が増え、テレビで「認知症の妻と心中」というニュースが流れるとつい見入ってしまうこともあったそうだ。
大山さんの認知症診断から3年後、砂川さんは公表に踏み切った。すると心に余裕ができたという。
結城氏「家族だけで抱え込んでしまうと行き詰まってしまう。社会サービスを使うこと、人に話すことで介護者自身の心に余裕が出る」
例えばヘルパーは、自宅での家具の置き方、けがを避けるために要介護者の手の届かないところに物を置く、しまうといったアドバイスをしてくれる。介護者は、こうした知識の豊富なプロを積極的に頼る姿勢が求められる。
もうひとつ重要なのは、早い段階で医師の診察を受けさせること。今は薬の発達のおかげで、病気の進行を遅らせることが可能だと結城氏は話す。
厚生労働省によると、2015年に要介護者がいる世帯で65歳以上が5割、75歳以上が3割に達した。最近では、介護者に先立たれた要介護者が孤独死するという悲しい出来事が報じられている。高齢化は年々進み、2025年には「団塊の世代」が後期高齢者の仲間入りをする。
政府の方針は、在宅介護の推進だ。自宅での老老介護は、今後増えると予想される。番組が提言した「元気なうちの準備」は2点だ。
1点目は、近所に老老介護をしていると知ってもらう。介護者が亡くなった場合、要介護者の早期発見につながる。介護の事実を隠さず、地域の人に伝えておこう。同じ地域で老老介護をしている人がいれば、情報共有もできる。
2点目は、親族の連絡先をメモで残しておく。仮に介護者が亡くなったら、例えば要介護者がその後施設に入るといった各種手続きを行う上で、まず親族に声がかかるためだ。