南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊の部隊が作成した日報の所在をめぐる問題で、稲田朋美防衛相がさらに窮地に立たされそうだ。日報は、一度は陸自で「廃棄した」とされていたが、後に陸自内でデータが保管されていたことが判明し、「隠蔽体質」批判が相次いだ。稲田氏は、一連の経緯について報告を受けていないなどと繰り返し国会で答弁してきたが、データ発見後の対応を協議し「非公開」を決めた場に稲田氏も出席していたと朝日新聞と共同通信が指摘した。
仮にこれが事実であれば「防衛省・自衛隊の組織的隠蔽を容認した形」(共同)になるだけに、野党は改めて更迭を求めるなど攻勢を強めている。安倍晋三首相は2017年8月3日にも内閣を改造する予定で、失言が相次いだ稲田氏は交代する公算が大きいものの、残る2週間で進退問題に発展するかが焦点になりそうだ。
共同「防衛省・自衛隊の組織的隠蔽を容認した形になる」
日報をめぐっては、防衛省は開示請求に対して16年12月、「廃棄していた」として不開示を決定。だが、12月中に統合幕僚本部にデータが残っていたことが明らかになり、17年2月に一部黒塗りで開示。3月には陸自でもデータが保管されていたことが発覚した。陸自内では1月にデータがあることを把握していたと報道されたことから「隠蔽体質」といった批判が続出した。稲田氏は17年3月16日の衆院安全保障委員会で、一連の「隠蔽」行為について「報告は受けなかった」と答弁していた。
ところが、17年7月19日の朝日・共同の報道では、
「陸自内の文書の存在について対応を協議した省内の幹部会議に、稲田朋美防衛相が出席していたことが分かった」(朝日)
「稲田朋美防衛相が2月に行われた防衛省最高幹部による緊急会議で、保管の事実を非公表とするとの方針を幹部から伝えられ、了承していたことが分かった」(共同)
と、両社とも「複数の政府関係者」の話をもとに報じている。
とりわけ、共同は「防衛省・自衛隊の組織的隠蔽を容認した形になる」と指摘。共同から国内記事の配信を受けている毎日新聞と東京新聞(いずれも東京最終版)は1面トップでこの記事を掲載し、それぞれ「稲田氏が日報隠蔽了承」「稲田防衛相、隠蔽容認」の見出しをつけた。
稲田氏「隠蔽を了承したとか、非公表を了承したとかいう事実は全くない」
この報道を受け、民進党の山井和則衆院議員(党国対委員長)は、7月19日午前、
「1日でも長く稲田大臣を防衛大臣に留任させることが、国防という観点から国益を大きく害している。このことに安倍総理は気づくべきだ」
などとして、改めて稲田氏の罷免を要求。攻勢を強めている。
稲田氏ら政府側は事実関係を否定している。稲田氏は19日朝、記者団に対して
「書かれているような、隠蔽を了承したとか、非公表を了承したとかいう事実は全くない」
と発言。朝日・共同の記事で会議に出席していたと指摘された防衛省の黒江哲郎事務次官は
「稲田氏が非公表を了承したという報道になっている」
という記者団の問いかけに対して、
「そういう事実関係はないと思う」
と答えた。菅義偉官房長官は19日午前の会見で、更迭や罷免の可能性について問われ、
「私自身も、大臣に事実確認をした。大臣から『そのような事実はない』(と回答があった)。そして報道機関から問い合わせを受けて、そのように(否定の)コメントしたということだ。いずれにしても、大臣にはしっかりと本件調査を行って、今後とも誠実に職務にあたっていただきたいと考えている」
などと述べた。