「日本もイスラム教徒を受け入れたらどうだい?」
私は男性に言った。
「当時、日本人が多くの人を苦しめたことは、本当に申し訳なかったと思う。あなたは過去に日本がしてきたことで、日本が嫌いだと言うけれど、今の日本を見てほしい。戦後の日本はアメリカのように、戦争を起こしたり加担したりしていないわ」
「それは、戦後の占領下で作られた憲法に縛られているからだろう? 日本人にはもともと、戦士の血が流れている」
「日本もひどいことをしてきた。でも、だからといって、あなたは原爆を正当化できるの?」 と私が聞いた。当時10歳だった私の義母は、広島の原爆で両親と兄を一度に失った。
「できる」。即答だった。
「原爆を落とされたくなかったら、真珠湾を攻撃するな」
「原爆は核兵器で、しかも一般市民を殺したのよ」
「君たちはアメリカ人を殺した。負け惜しみを言うな。僕は自分の国が原爆投下したことを、謝る気はない。戦争は地獄だ。戦争は悪の海だ(War is hell. War is an ocean of evil.)」
原爆を正当化するアメリカ人は年々減りつつあるものの、2015年のギャラップ調査によると、今も全体の56%を占める。その割合は、共和党支持者では74%と、民主党支持者の52%を大きく上回っている。
2017年7月7日、核兵器禁止条約がニューヨークの国連本部で採択された。しかし、米国など核保有国は、「安全保障環境の現実を明らかに無視している」と強く批判した。 米国の核に守られている日本は、唯一の戦争被爆国でありながら、会議に参加すらしなかった。
トランプ大統領はこれまでインタビューなどで、「過激派組織「『イスラム国(IS)」』がアメリカを攻撃してきたら、核兵器使用もあり得る」、「核兵器を持っているなら、なぜ使えないのか」といった発言をしてきた。
セントラルパークで出会った自動車修理工の男性は、トランプ氏を支持している。
「日本はアメリカを非難する前に、自分の国でイスラム教徒を受け入れたらどうだい? イスラム教は政治的な宗教だ。とくにシリアからは、誰もアメリカに入ってきてほしくない」 と淡々と話す。
過激派組織「イスラム国」に対する核兵器使用について、男性はどう思っているのか。
最後まで私が聞けなかったのは、彼の返事を知りたくなかったからかもしれない。
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。