一般家庭に太陽光発電と蓄電池が普及した場合、電気は自給自足が可能となり、将来的には電力会社との契約が要らなくなる――。そんな未来を予感させる動きが日本国内でも生まれつつある。米テスラが横浜市で開かれた国内最大級の太陽光発電見本市「PV JAPAN」(2017年7月5~7日)で家庭用蓄電池を出展し、日本経済新聞が取り上げるなど注目を集めた。現状でも太陽光の発電コストは大手電力の電気料金を下回っており、今後の鍵を握るのは蓄電池の普及とみられている。
電気自動車で知られるテスラは、家庭用の太陽光発電装置「ソーラールーフ」と蓄電池「パワーウォール」を米国で市販している。ソーラールーフは文字通り、自宅の屋根などに太陽光発電パネルを設置し、自宅で発電。その電力を蓄電池に蓄えて昼夜利用する。
電力会社から電気を買うよりも安い時代が...
かつて「太陽光発電はコスト高」と見られていた。しかし、固定価格買取制度(FIT)の政策的な効果もあり、それも昔の話。野村総合研究所によると、太陽光発電の発電単価は最大でも13.6円/キロワット時で、2014年度の家庭用電気料金の平均単価25.51円/キロワット時を下回る。
自然エネルギー財団(東京都港区)によれば、ドイツ、イタリア、スペイン、オートラリア、イスラエル、メキシコでは2011年から12年にかけ、太陽光発電の発電単価が大手電力の家庭用電気料金よりも安くなっている。「日本もようやく世界に追いついてきた」ということだ。
家庭用のソーラーパネルはこれまでも国内外のメーカーが販売してきたが、問題は蓄電池だった。テスラは2016年10月にパワーウォールの新製品を発表。日本国内での発売時期は未定だが、14キロワット時のバッテリーは69万6000円。付属品をつけても機器総額は78万5000円で、関係者によると日本製品の3分の1程度の価格という。一般的な家庭への設置費用は10万1000円から25万3000円程度だ。
エネルギーの専門家によると、家庭で太陽光発電を行い、蓄電池に蓄えることで夜間にも自家消費したり、余剰分を電力会社に売電したりした場合、自家消費分や売電で得た効用(総効用価格)が、蓄電池などの導入コストを上回るかどうかが普及の焦点になる。専門家の間では、今後、蓄電池の価格低下が実現すれば、2030年前後には「太陽光発電と蓄電池を利用した方が、電力会社から電気を買うよりも安い時代が来る」という。
業務・産業部門でも
太陽光発電と蓄電池の組み合わせは分散型電源と呼ばれ、原発や火力発電を中心とする大手電力の大規模電源と棲み分けが進む可能性は高い。とりわけ離島など割高なディーゼル発電を基幹電源とするような地域では、価格優位性で太陽光発電と蓄電池の普及が進むと見られている。
電力会社から電気を買うのではなく、自宅に太陽光発電と蓄電池を設置した方が電気料金が安くなる世界は「ソーラーシンギュラリティー」と呼ばれる。シンギュラリティーとは、ソフトバンクの孫正義社長が「人工知能が人間の能力を超える近未来」を指す言葉として多用するが、ここでは「既存のシステムを大きく変える技術的特異点」を指す。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は太陽光発電について「2020年には、既に拡大した住宅用だけでなく、業務部門や産業部門で系統電力(大手電力会社)に代わって選択される発電コストを実現する」と予測。さらに「2030年までに公的支援に頼らず、自立して普及するエネルギーとなる。発電事業あるいは自家発電向け電源として選択され、エネルギー供給を支える」とみている。
太陽光発電と蓄電池の普及で電気が自給自足となり、電力会社との契約が要らなくなる日が来るのは、決して夢物語ではないようだ。