7月10日(2017年)に行われた国会閉会中審査では、いろいろなことがわかった。マスコミ報道では、「何も解明されていない」というのが定番コメントだが、それは国会審議のすべてが報道されている訳ではない、というだけの話だ。
J-CASTニュースでは、「加計問題、なぜか報道されない『当事者』前愛媛県知事の発言全容」(11日配信)が興味深かった。加戸守行・前愛媛県知事の青山繁晴議員(自民)の質問に対する発言は、参院サイト上でみることができる。また、一般紙であるが、産経新聞の「朝日と毎日は『ゆがめられた行政が正された』の加戸守行前愛媛県知事発言取り上げず」(12日配信)も面白かった。実は、10日の閉会中審査では議論されているのだが、マスコミにはほとんど取り上げられないものとして、前川喜平・前文部科学事務次官のいう「ゆがめられた行政」の内容、がある。
告示の特例を作ることに
マスコミ報道ばかり見ているほとんどの人は、これを次のように説明するだろう。
「文科省の行う大学設置認可が、総理の意向でゆがめられた」
そして、こうした規制緩和は行き過ぎているとコメントする識者も多い。
特区法は、規制緩和を行うための仕組みだ。その場合、対象となっている規制を明確化する。加計学園の場合、対象となっている規制は、文科省告示(平成15<2003>年3月31日文部科学省告示第45号)である。
この内容は、獣医師大は、医大などとともに、設置認可を申請してはいけないというのだ。これは、筆者のような元官僚から見れば驚きだ。認可制度がある以上、認可するかどうかは別として申請は自由である。
ここ3年程度、内閣府と文科省の間ですったもんだの末、この文科省告示の特例という形で規制緩和がなされた。2017年1月、文科省は文科省告示の特例を作ることとなった。
「門前払い」だったのが「申請してもいい」となっただけ
この特例は、あくまで設置認可の申請をしていいというだけだ。もちろん、認可制度がある以上、認可されるかどうかは別である。
これで分かっただろう。前川氏のいう「行政がゆがめられた」というのは、認可申請において、「門前払い」だったのが「申請してもいい」となっただけだ。最終的な大学の設置認可権限は文科省が手放すはずがない。この「特例」に基づき、申請した後は、文科省により審査が行われて、それにパスすれば、設置が認可されることとなる。
今、前川氏を好意的に扱っているマスコミは、前川氏のいう「行政がゆがめられた」を正しく報道していない。行政の元になっている文科省告示は、下手をすると、法律違反になりかねない。これが文科省レベルで発出できる告示ではなく、それより上位にある政府が出す政令であれば、法制局は認めないはずだ。相手が大学で規制の枠内で文科省が与しやすいところだからこそ、こうした非常識な告示が出せたのだろう。この門前払いの文科省告示こそ、文科省のゆがんだ行政である。ゆがんだ告示の特例を作ったので、加戸氏が「ゆがめられた行政が正された」と言うのは、もっともである。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「大手新聞・テレビが報道できない『官僚』の真実」(SB新書)など。