横綱・稀勢の里が名古屋場所で序盤戦から苦しんでいる。2017年7月11日の3日目終了時点で1勝2敗。
単に勝敗数だけでなく、2場所前に負った左腕付近のけがの影響を感じさせることから、すでに「休場」を望む声が角界からも飛び出す。
「なかなか力が出ないかもしれない」
休場明けで臨んだ2017年の名古屋場所、稀勢の里は7月11日の3日目に前頭2枚目の栃ノ心に敗れて2敗目。立ち合いから左の下手、直後に右前まわしを取られた稀勢の里は、得意の左を攻めようとするも入り込めず、逆に上体を起こされた。直近3度の対戦で1勝2敗と決して得意とは言えない相手ではあったが、良いところなく寄り切られた。
NHKの中継で解説した春日野親方(元関脇・栃乃和歌)は取り組み前から、「(稀勢の里の体を)見ると、胸と肩の間の筋肉が力を入れるとへこみますよね。これは(筋肉が)切れている証拠。なかなか力が出ないかもしれない」と、春場所で負った左大胸筋と左上腕二頭筋の傷の影響を懸念していたが、これが的中した。
高砂親方(元大関・朝潮)は12日付の日刊スポーツで栃ノ心戦を振り返り、「敗因がケガの影響であることは明らかだ。ならば万全な状態に戻して出る、そのために休むと割り切って決断しても誰も責められない」と稀勢の里に休場を促した。
藤島親方(元大関・武双山)はより厳しい見方をした。同日のサンケイスポーツで「上体だけで差しにいっている。左腕の状態うんぬんではなく、稽古そのものが足りないのではないか」と、けが以外の不調の原因を推測し、「休場も致し方ないだろう」との立場だ。 稀勢の里が3日目までに2敗したのは大関時代5年間(12年初場所~17年初場所)でも3場所しかない。もとより、先の夏場所では「左大胸筋損傷、左上腕二頭筋損傷で約1か月の通院加療を要する」との診断書を休場した11日目の5月24日に日本相撲協会へ提出しており、この名古屋場所に万全で臨めるかは微妙なところだった。
舞の海「必死に表情を変えないように踏ん張ったのだろう」
西岩親方(元関脇・若の里)は7月10日、NHK中継の解説で稀勢の里について、前頭筆頭・貴景勝戦を前に「左腕のけがの状態はかなり回復して、けが前に近いくらいになっている」として期待したが、同じく解説の元小結・舞の海秀平は「私は心配ですね」と異を唱えた。
「もしけがが良くなっていて昨日のような相撲(編注:関脇・御嶽海に両差しされて寄り切られ、黒星)だとすると、昔の悪い時の稀勢の里に戻ってしまったということですから不安ですよね。私は左上腕を断裂したことがありますが、稀勢の里の左上腕がどういう状況なのか、筋肉が伸びきってしまっているのか、部分的に断裂しているのか、相撲内容からしか推測できない」
稀勢の里は2日目のこの日、押し合いの末に突き落としで白星をあげたが、舞の海は「左を差し込もうとするも上体が起きていました。勝負が決まった瞬間、稽古場だったら左腕の痛みで顔をしかめているんだろうなと。それを必死に表情を変えないように踏ん張ったのだろうと見えました」と、けがの影響は色濃いと見ているようだった。
前出の日刊スポーツ記事で高砂親方は「(日本相撲)協会の看板として出場するのが横綱の責務。同時に勝つことが求められるのも横綱」と、横綱としての「責任」にも言及していた。
横綱の不調には進退問題がつきまとう。この名古屋場所では、横綱・鶴竜が右足関節外側靭帯の損傷により、4日目の12日から休場すると相撲協会が発表した。鶴竜は横綱に昇進した14年夏場所以降、優勝は2回で、休場は6度目。師匠の井筒親方(元関脇・逆鉾)は「次に出場する場所で駄目なら潔く(引退を)決断する」と述べたと報じられている。
稀勢の里本人は2敗目を喫した11日の取組み後、「明日(12日)もしっかりやるだけ」との言葉を残すのみだった。