認知症になる人は9年前から運動量が減る
ひとりひとりの運動内容も次のように詳しく聞いた。
(1)軽度の運動を週にどのくらい行っているか。たとえば、除草、掃除、料理・洗濯など一般家事、自転車修理など。
(2)適度に活力がある中程度の運動を週にどのくらい行っているか。たとえば、ダンス、サイクリング、ゆっくりの水泳、ウォーキングなど。
(3)非常に活発な高強度の運動を週にどのくらい行っているか。たとえば、ランニング、水泳、スカッシュ、サッカーなど。
その結果、調査期間中に329人(3.2%)が認知症を発症した(診断時の平均年齢は75歳)。その人たちと運動量を比較すると、運動の強さと認知症の発症リスクにまったく関連がみられなかった。盛んに運動をしていたから認知症にならなかった、あるいは、ほとんど運動しなかったから認知症になったという因果関係はなかったという。特に研究チームは、WHOが推奨する「週に2時間半以上の中~高強度の運動」を基準に、対象者をそれ以上の運動をする人と、それ以下の運動しかしない人に分けて比較したが、発症リスクに関連がなかった。WHOの推奨どおりに運動しても認知症の予防にはつながらないというのだ。
研究チームは、27年間もの長期間追跡する過程で重大な発見をした。それは、認知症を発症する人は、認知症と診断された時点より少なくとも9年前から身体活動量が低くなることだった。それまで、週に2~3時間「中程度」「高強度」の運動ができた人が、平均で39分~1時間ほど運動時間が減り始め、どんどん運動時間が少なくなるという。従来は、認知症になる1~2年前くらいから運動量が減ると思われてきた。
このことから研究チームでは、論文の結論でこうコメントしている。
「運動量が多い人ほど認知症になりにくいというこれまでの研究は、認知症になる人は、かなり前から運動できなくなるという事実を見過ごしている。因果関係が逆で、運動するから認知症を予防できるのではなく、認知症にならない人が運動できると考えるべきだ」
では、運動はしてもしなくても同じなのだろうか。そのことに関して研究チームは何もコメントしていない。しかし、運動には数多くの健康効果が明らかになっている。ウォーキングには13種類のがんの予防効果があることが明らかになっているし、少なくても脳の血流がよくなり、脳が活性化することは確かだ。