「この対策では、パチンコ店には依存症の人しかいなくなってしまいます」――「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんは、そう憤る。
2017年7月11日、警察庁は、パチンコの出玉などの規制を強化する風俗営業法施行規則の改正案を発表した。客の得られる「儲け」を少なくすることで、ギャンブル依存症の対策を進める、というのがうたい文句だ。しかし田中さんをはじめ、この改正案には批判の声が少なくない。
一度に得られる「儲け」は5万円以下に
パチンコについては、風営法施行規則で制限がかけられており、あまりに多くの出玉が獲得できる可能性がある場合、「著しく射幸心をそそる可能性がある」として規制の対象となってしまう。たとえば現在は、1時間パチンコを打ち続けたとき、戻ってくる出玉は「3倍」まで、10時間なら「2倍」までだ。
ところが、今回の改正案では、1時間は「2.2倍」、標準的な遊戯時間として新設される4時間なら「1.5倍」、10時間では「3分の4(約1.33倍)」と大きく絞り込まれる。1玉の価格は4円が主流、1分間に射出される玉の最大数は100発なので、4時間遊び続けても、客はどんなに勝っても、約5万円程度しか儲からないこととなる。
このほか、「大当たり」で獲得できる出玉も、現行の2400個から1500個に引き下げるなど、客の得られる見返りを小さくする内容が盛り込まれている。
この改正案は、2016年のいわゆる「IR推進法」の成立を受けたものだ。パチンコを「儲からない」ものにすることで、ギャンブル依存症への「対策」とする――それが警察庁の狙いだ。
「なんでこれが依存症対策なのか」
ところが発表された改正案には、厳しい反応が目立つ。
「出なかったらやめる人はそもそも依存症なんかじゃないし、負け分を取り返すため出るまで続けようとするのが依存症で逆効果なのでは」
「排出率が辛くなっても、やめないヒトは(※編注:スマートフォン向けゲームなどの)ガチャをやめない。その理屈、まだ『エライひと』には理解できないんだろうかねえ...」
「依存症が分かってない、勝てないと思って打ったことは無いww」
ツイッターには、こうした声が相次いで書き込まれる。
自身、依存症の当事者としてこの問題に取り組み、『ギャンブル依存症』(角川新書)などの著書がある前述の田中さんは、J-CASTニュースの電話取材に、「なんでこれが『依存症対策』なのか」と怒りを隠さない。
確かにこの対策で、パチンコ店から足が遠のく人は出るかもしれないが、それは「依存症」ではない「普通の人」だ。すでに依存症となってしまった人は、出玉が規制されても、「コツコツやればいつかは取り戻せる」とパチンコから離れず、結果的に店は依存症者ばかりに。かえって状況の悪化を招く――というのが田中さんの見立てであり、「当事者である私たちから見たら、『トンチンカン』な対策です」と断ずる。
田中さんはむしろ、パチンコで「使うお金」に規制をかける方が有効であると論じる。実際に、ノルウェーではこの限度額システムの導入により、依存症患者を減らすことに成功した。
「ギャンブル依存症は病気と同じで、どれだけ『予防』しても完全に防ぐことはできません。優先順位を考えれば、今苦しんでいる人をどうやって救出するかという話が先でしょう」
改正案は警察庁のウェブサイトなどで公開されており、8月9日までパブリックコメントを受け付けている。