「好転反応」という言葉を聞いたことがあるだろうか。もともとは鍼灸やあん摩などの施術過程で発生する身体反応のことを指しているが、現在はどちらかといえば標準医療以外の代替医療や健康食品、化粧品などを利用している際に一時的に体調が悪くなることを指す場合が多いようだ。
厚生労働省は「健康食品情報の冷静な受け止め方」というハンドブックの中で「好転反応に科学的根拠はない」と断言。好転反応を謳うものには十分に注意をするよう呼びかけている。
「自然治療法」で好転反応?
「好転反応」という言葉が身近に使われている例は、5月に自身のインスタグラムで皮膚疾患である「乾癬(かんせん)」であることを告白したモデルの道端アンジェリカさん(31)が、告白した意図などを語った2017年7月3日付の日刊ゲンダイデジタルの記事だ。
記事の中で道端さんは最初に始めた乾癬治療が周囲からすすめられた東洋医学の自然治療法だったと明らかにし、ヒマシ油を浸した湿布を肝臓付近に毎日1時間あて重曹水で拭き取る、ハーブティーを飲むといった方法を1か月ほど続けたところ症状が悪化したという。この悪化について道端さんは個人差があると思うとしつつ、悪いものが出てそこからよくなる好転反応だったと語っている。
日本皮膚科学会のウェブサイト上では乾癬の治療は症状によって異なるもののステロイド外用薬などの塗り薬からスタートし、紫外線療法や内服薬を組み合わせた治療を行い、副作用が出る場合は「抗体療法」という注射による新しい治療法が使えるとしている。当たり前だが、ヒマシ油を塗ることやハーブティーを飲むことなど推奨していない。
前述の一時的な悪化が適切な治療を受けなかったことによる乾癬の進行だったかは判断できないが、道端さん自身は現在乾癬の専門病院に通い抗体療法を受けているとのことで、自然治療法はやめたようだ。
J-CASTヘルスケアの取材に答えたある医師は「好転反応などという考え方は標準医療には存在しない」と懸念を示す。
「危険なのは実際には病気が進行し悪化しているのに、本人や周囲は『好転反応だ』と信じ続け、効果的な治療を受ける機会を逃したり放棄したりすることです。仮に初動が大切な命にかかわるような病気であれば取り返しがつきません。もし好転反応という言葉を聞いたら、冷静になってまずは医療機関で診察を受けてもらいたいと思います」
悪徳商法の定番フレーズにも
消費者庁によると好転反応は、悪質な業者が健康被害発生後も商品やサービスを継続利用させるための便利な言葉としても利用されており、2014年には注意喚起が発表されている。
同庁の報告書では健康食品や美容サービスを受けて体調が悪化し、業者に返金や説明を求めたところ、「症状が発生するのは好転反応」「今は毒素が抜けているところ」などと言われ継続利用を求められたとする被害の例が2010~2012年までに339 件寄せられ、そのうち100件は説明を信じて利用を継続した結果、症状が持続・悪化したという。
事例でも、
「アトピーでも使用できるという化粧品を使用したところ、肌がボロボロ剥がれた。販売業者には好転反応と言われたため使用を継続したが症状は悪化し、皮膚科を受診したところ、かぶれによる発疹と言われた」
「知人にすすめられた健康食品を飲んでいたが湿疹ができ、知人に伝えると『身体から悪いものが出ているので、そのまま飲み続けるように』と指示されたが、湿疹は全身に及んだ。病院で診察を受けたところ、原因は健康食品によるアレルギーと言われ、飲むのを止めたら治まった」
など、好転反応を信じた結果、悪化した例が大半だった。
消費者庁も厚労省も、健康食品や健康関連のサービスを利用して不快な症状が発生した場合、当該商品やサービスによる健康被害を疑い、すぐに使用を中止し医師に相談するよう呼びかけている。