なぜ医療の話なのに「社会工学」なのか
「社会工学と健康科学から見た新たな生活環境の在り方へ」に関係した話をしたのは、寺島実郎会長(一般財団法人・日本総合研究所会長、一般社団法人・寺島文庫代表理事)。人口減少と高齢化が避けられない日本では、高齢者が社会の中で「目的」を持って生活していける枠組みが必要だと訴えた。
「2016年の統計で一番気になったのが、『80歳以上が1000万人を超す時代が来た』という事実です。65歳以上人口は27.6%と3割に近づいています。2050年に総人口が1億人を割り、65歳以上は4000万人、80歳以上は2000万人に迫ります。まさに『異次元の高齢化』です。
これまでは、良い大学を出て就職し、60歳の定年になったら大概は悠々自適な第二の人生でした。ところが第二の人生がどんどん長くなっており、定年から30年後、90歳くらいまで生きても何らおかしくなくなります。その前提で社会システムを構築し、人生をプログラムしないといけません」
定年後の計画がないとどうなるか。寺島氏は次のような「シルバーデモクラシーのパラドックス」が生じかねないと指摘する。上記のように人口の4割が65歳以上になると、有権者(18歳以上)に占める65歳以上の割合は5割を超え、実質的に高齢者が社会的な意思決定をしていくようになる。すると、時には経済・社会の中心をなして未来を担う若年~中年層の意思とは相反する判断を招きかねず、「高齢者が『爆走老人』として新たな問題を投げかけるかもしれません。社会の安定装置になるとは限らないのです」と指摘した。
現在の高齢者層が働き盛りだった当時の職住の形態にも現在まで根を下ろす社会問題の原因があるとする。都心の周辺にできたベッドタウンに移住し、身を粉にして働いてきた「モーレツ社員」ほど、今後の高齢社会に課題を投げかける可能性があるという。
「田舎と都会の高齢化はまるで違います。田舎の高齢化は近くに一次産業があり、多くの家族が複数世帯で住んでいる、つまり高齢者が社会に入り込んでいけます。一方、都会の高齢化は、住居がベッドタウンとして寝るために帰っていただけだから取り付く島もない。やることがないのです。80歳でも健康を維持するのは非常に大事なことですが、同時に社会に参画できるプラットフォームを構築しながら高齢化していくことの重要性を痛感しています」