ムーディーズが中国の格付けを一段階引き下げたのは、2017年5月24日のことだった。中国の長期本位貨幣と外貨発行者の格付けをAa3からA1に引き下げた。その後、しばらく「中国崩壊論」が少し勢いが付き、今回こそ中国経済は崩壊に向かうとも言われるようになった。
たまに東京に行き、本屋を覗くと、「中国崩壊論」と「中国脅威論」の本は、中国人の私の注目を引く。もうかれこれ20年以上も叫ばれ、ここ10年は「シャドーバンキング危機論」、「地方債務危機論」、「金融危機論」が耳から離れない。それに反論するつもりはないが、欧米的な意味における本当の危機は、中国では一度も発生していない。
いまだ「計画経済」の影響
金融危機や債務危機を語るとき、まずひとつの事実に気づかなければならない。それは、現今の中国経済は計画経済から派生してきたもので、計画経済下では金融危機もなければ債務危機も存在しないということである。理由はきわめて単純で、計画経済には金融などまったく必要ではなく、中国には長期にわたって銀行は1行、すなわち中国人民銀行しかなかった。計画経済下では債務危機も存在しない。いみじくも当時の中国首脳が語ったように、「内債もなければ外債もない」のであった。
この視点からすれば、現在の中国が計画経済から市場経済に転換した国として、大規模な債務危機や金融危機が起ったことがないのはその制度と歴史的な源流にその要因が求められる。
市場経済を施行して数百年になる先進国とは異なり、今日でも中国の銀行体系は相変わらず国営が主体で、預金者は銀行の背後に政府保証があることを信じ、それが現在の銀行体系に対する絶大な信用になっている。
たとえば今世紀初め、当時の銀行が抱えていた債務の焦げ付きは預金残高の40%に達していたが、大規模な取り付け騒ぎは起こったことがなく、これは他の発展途上の市場経済国ではあり得ないことだった。最近の数年間、マーケットの銀行に対する焦げ付き率が悲観的な状況に陥ったときでも、国内預金者の銀行に対する信用は揺らぐことがなかった。