アメリカンフットボールにおいて、オフェンスラインの猛攻を食い止めるディフェンシブラインの中で重要な役割を果たすのが、文字通り体を張って相手を食い止めるディフェンシブタックル(DT)だ。
受ける衝撃も相当なものと推測されるが、現役時代に米ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)屈指のDTと絶賛され、引退後はNFL殿堂入りも果たしたウォーレン・サップ氏(44)が、現役時代に度々受けてきた頭部への衝撃が原因で記憶障害を発症していると、2017年6月20日米国のオンラインスポーツメディア「The Players' Tribune(プレイヤーズ・トリビューン)」で告白した。
行きなれた友人の家も思い出せない
サップ氏は1995年から2007年まで活躍した名選手のひとりだ。大学卒業後に入団したバッカニアーズは「(他のチームに踏みつけられる)ドアマットチーム」と呼ばれるほどの弱小チームだったが、サップ氏入団後は瞬く間に強豪チームに変貌。
チームはプレーオフ進出常連ともなり、サップ氏自身も最優秀ディフェンス選手受賞やプロボウル(NFLのオールスター戦)に7回連続で選出されるなど、輝かしい実績を持つ。2013年にはその功績が讃えられNFL殿堂入りした、NFLファンならば誰もが知る人物だ。
そんなサップ氏がプレイヤーズ・トリビューンで、「買おうと思っていたものを頻繁に忘れたり、1000回以上も訪れたことがある友人の家への行き方を思い出せない」と告白し、自身が現役時代に頭部に受けてきた衝撃が原因で発症する「慢性外傷性脳症(CTE)」であると明らかにしたのだ。
スポーツ選手の脳震盪による影響を調査してきた米国の研究団「Concussion Legacy Foundation」によると、CTEは慢性的に脳震盪や脳への衝撃を受け続けることで発症する脳の疾患だ。アメフトだけでなくボクシングや野球、サッカー、BMXの選手などにも見られるという。
その症状はサップ氏のような記憶障害のほかに抑うつ、錯乱などが主だが、認知症やアルツハイマー病に似ているため診断が困難で、死後に解剖して脳を検査しなければ確定診断が下せない。
サップ氏が自身をCTEだと考えたのは、最近Concussion Legacy Foundationによって発表された、元NFL選手95人の脳の調査結果だ。なんと91人がCTEであったことが判明し、全員が生前に認知症やアルツハイマー病のような症状を発症していたという。