牛丼チェーンの吉野家は2017年7月3日、食後の血糖値の上昇を緩やかにしたり、糖の吸収を阻害したりする効果が期待できるという、「サラシア牛丼」を全国の店舗で発売した。牛丼と言えば高カロリーながら「ガッツリ食って元気出そうぜ」というサラリーマンに主に支持されてきた。お世辞にも「健康対策」とはあまり縁がなかったが、成長を持続させるために健康アピールに乗り出した。牛丼チェーンではすき家が4月、米粉入りコンニャク麺を使った低糖質の「ロカボ牛麺」を発売した。これらの動向によっては牛丼チェーンで健康を意識した動きが今後も広がる可能性がある。
サラシアは、インドやスリランカに古くから生育している。インドの伝統医学である「アーユルヴェーダ」などにも登場し、健康維持のためにお茶などに活用されてきた植物だ。近年、その摂取による多様な効果が話題になっていることに吉野家が着目した。
吉野家は「血糖値の上昇を緩やかに」
まず、サラシアに含まれる「サラシノール」と呼ばれる成分は、食後の血糖値の上昇を緩やかにする効果があるとされる。糖質を多く含む食品を大量に食べると、血糖値が急激に上昇し、結果的に心臓病や脳卒中、糖尿病などを引き起こす可能性が高まるが、サラシノールの摂取でそのリスクを低減できるというわけだ。また、サラシノールには糖の吸収に関わる酵素(α-グルコシダーゼ)の働きを阻害する効果があるとされる。そのため、牛丼のご飯などに含まれる糖の摂取量を抑制できるという触れ込みだ。こうしたサラシアの効果について吉野家は、ホームページに辻智子農学博士のコメントを載せてその見解を補強している。
サラシア牛丼は並盛りで480円(税込)の牛丼並盛りより100円高い。吉野家は1か月間に約1000万食の牛丼を販売するが、サラシア牛丼にはその1割の月100万食の販売を期待している。サラシアは色が赤く苦みがあるのが牛丼に盛り込むには難点だが、試行錯誤の末、味と色を従来の牛丼とさほど変えずにサラシアを入れることに成功した。3月に通信販売限定で試験的に具材だけを発売したところ、売り上げが好調だったため、店舗で牛丼として発売することに踏み切った。
吉野家は他の牛丼チェーンと比較しても、メニューにおける牛丼の比重が高く、カレーや定食、うどんなどが広く消費者に受け入れられている松屋、すき家に比べて「牛丼一本足打法」の度合いが高い。ただ、かつて吉野家の牛丼を愛した中高年は年を取るにつれ、「ガッツリ」がきついだけでなく、血圧などの数値も気になってくる。牛丼に健康対策を施した商品を出して客足をつなぎとめようというわけだ。
すき家は「低糖質」
各社がホームページで公開している牛丼のカロリーを調べてみると、並盛りは吉野家が669キロカロリー、すき家は656キロカロリー、松屋が709キロカロリー。これが最上位の特盛りやメガ盛りとなれば軽く1000キロカロリーを超えていく。これに味噌汁や卵、サラダなどをつけるとなかなかの数字になりそうだ。
また、吉野家のサラシア牛丼並盛りは673キロカロリーと、カロリーだけ見れば普通の牛丼とほぼ同じ。一方、米粉入りコンニャクで作った麺に牛肉と油揚げがのる、すき家のロカボ牛麺(490円)も、糖質は牛丼並盛りの約5分の1だが食味にはこだわった。味付けはあえて濃いめにし、麺ももっちりした食感を重視。ボリューム感と食べ応えで満足してもらうことを狙う。あくまで値ごろ感とおなかの満足を求めるサラリーマン向けだ。
こうした各社の取り組みは、裏を返すと、牛丼チェーンの来店客向けだけに、ヘルシーな食事にこだわるというよりは「ちょっと健康も気にしたい」というニーズを掘り起こそうということか。健康を意識するチェーン側の戦略が功を奏するか注目される。