3月期決算企業の株主総会が2017年も6月下旬にほぼ終了した。トピックスの一つは「物言う株主」の復活だ。電子部品商社、黒田電気の総会では、旧村上ファンド関係者の流れをくむ投資会社レノの株主提案が通った。物言う株主による株主提案の可決は、2009年にあった米投資会社スティール・パートナーズによるアデランス・ホールディングスの取締役選任議案以来、実に8年ぶりとみられるという。異例の提案はなぜ通ったのか。
黒田電気が、レノから社外取締役選任に関する株主提案を受け、取締役会はそれに反対すると発表したのは17年5月29日だった。2000年代半ばに物言う株主として注目され、インサイダー事件でのちに有罪が確定した村上世彰氏と関係の深いファンドだ。関係する法人・個人で黒田電気株の35%(議決権ベースで37%)を持つ筆頭株主となっている。
候補者リストを1人に絞る
レノ側は、経営統合の推進、コーポレートガバナンスの改善、株主還元の拡充を求め、元通商産業省官僚で、フューチャーアーキテクト社長などを歴任した安延申氏の選任を提案した。黒田電気側の説明によると、レノ側と最初に面談したのは3月29日。4月11日に村上氏やレノ代表取締役の福島啓修氏を含む6人の候補者リストを受領した。4月21日に村上氏らと面談。村上氏は「売り上げ規模の拡大と規模の利益を追求するために、他社との経営統合を推進する」という点を「繰り返し威圧的に」主張したという。その後4月27日に6人から安延氏1人に変更すると連絡があった。
5月2日に正式に提案を受領し、5月15日に社外取締役らで構成する指名委員会が安延氏と面談。指名委は「ビジネスマン・経営者としての見識は相応に高いものを持っている」と評価したものの、「電子部品事業に対する理解は深くなく、特定株主の意向を強く受けている可能性が高い」ため、取締役会は株主提案に反対することを5月23日に決めた。米議決権行使助言会社「インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ」(ISS)は株主提案に賛成するよう推奨したが、「グラスルイス」は反対を推した。
真っ向対立する可能性
株主提案の可決には過半数が必要。今回はレノ側に加え、機関投資家や個人が十数%分賛成に回らないといけない。従来は、他の株主にとって受け入れがたい「無理筋の提案」をしてくることが多かったため、ここで否決されるのがパターンだった。実際、2年前には村上氏ら4人を選任するよう求める議案が出されたものの、否決されている。
しかし今回は取締役候補を安延氏1人に絞ったことで、レノ以外の株主が受け入れやすくなった。取締役6人を選任する会社側の提案も可決しており、会社側、株主側の提案が両立した。レノ側の「控えめな提案」が功を奏した格好だ。
次の焦点は、取締役会の中身に移る。総会前、取締役会は株主提案に反対を表明しており、会社側メンバーと安延氏とが真っ向対立する可能性が高い。そんな中、安延氏が一定の成果を上げることができたなら、物言う株主の存在感はますます高まることになる。しかし目に見える成果がなければ、他の株主から「実行力がない」という評価が下されかねない。今後の黒田電気の動向に、ますます注目が集まりそうだ。