東芝が進める半導体子会社「東芝メモリ」の売却を巡り、売却契約締結の時期が当初の見込みからずれ込んでいる。東芝経営陣は「(2017年)6月28日までに契約する」と公表していたが、間に合わなかった。
東芝ではもはや珍しいことでもないが、相変わらずの見通しの甘さに、関係者からは「またか」とため息も漏れる。
定時総会で株主に報告する狙いがあった
日経新聞は6月27日付の朝刊1面で、「東芝、きょうにも売却契約」と報じた。だが、結果は契約に至らなかった。東芝幹部が前日夜、記者団に「(契約作業が27日中に)終わることを前提にがんばる」などと意欲を語っており、日経は東芝側のコメントを真に受けて「飛ばし記事」を書いた形だ。27日中の売却契約については、主要行や経済産業省など関係者の話からきわめて難しいとみられていた。本来は民間企業ネタに強いはずの日経でさえ、先を見誤る。東芝がいかに予測不能な状態にあるかの証明かもしれない。
東芝が、官民ファンドの産業革新機構、日本政策投資銀行、米ファンドのベインキャピタル、韓国の半導体大手のSKハイニックスなどからなる「日米韓連合」を東芝メモリ売却の優先交渉先とすると決めたのは21日。その際の適時開示資料に、「28日までに最終合意を目指す」と記されていた。たった1週間で最終合意までこぎ着けるという強行スケジュールに、日米韓連合の関係者の間でも「そんな短期間で契約締結まで本当にいくのか」と疑問の声があがったほどだ。
そもそも、東芝が売却契約期限を28日までと定めたのは、同日の定時株主総会で株主に報告する狙いがあったからだ。四日市工場(三重県)でフラッシュメモリーを共同生産する米ウエスタンデジタル(WD)と売却をめぐり訴訟沙汰になり、大もめにもめていることが報じられる中、「売却手続きが滞りなく進んでいることを株主に示したい」との意図があったと想像できる。WDが売却手続きの停止を求めて提訴するなど想定外の出来事が起き、優先交渉先の決定が想定以上に後ずれしたことへの焦りもあった。契約期日を示す必要もないのに、無理をしたことが完全に裏目に出た形。度重なる東芝のお粗末な対応ぶりに、株主総会でも「役員が全員退任すべき」などと厳しい批判が飛んだ。
ただ、東芝が日米韓連合との売却契約をいつ結ぼうが、実は大きな問題ではない。なぜなら、もっと重要な出来事が控えているからだ。
米国裁判の行方
7月14日(日本時間15日未明)、WDが米カリフォルニア州上級裁判所に起こした売却差し止め訴訟の審問が開かれる。ここで、WD側の主張が認められれば、売却交渉は即ストップしなければならない。しかも、米国の裁判に詳しい弁護士には「WDが勝つ可能性の方がむしろ高いのではないか」とまで見られているのだ。
もし東芝が負ける事態になれば、売却契約どころではなくなり、産業革新機構や政投銀も手を引かざるを得ない。その結果、東芝の経営再建の先行きにも陰を落とすことになる。具体的には、今期中(2018年3月末)までに売却できず、2期連続債務超過→東証上場廃止という悪夢が現実になりかねないということだ。
東芝はこの絶体絶命の事態を乗り切れるのか。その運命の「Xデー」は間もなくだ。