夜勤やシフト勤務が、細胞生存のため重要なプロセスである「DNA修復」を行う身体の能力を阻害している可能性が新たな研究で示された。
DNAは、紫外線や放射線の外的要因や細胞の代謝過程、活性酸素などの内的要因により絶えず損傷を受けており、その損傷にはがんなどを引き起こすリスクが潜んでいる。
睡眠ホルモン減少が影響か
夜勤やシフト勤務をめぐってはこれまでにも、概日リズム(体内時計)の乱れなどに繋がることなどから、健康への悪影響の可能性が示されてきた。認知障害や代謝疾患によるメタボリックシンドローム、がんや心血管系疾患との関連が指摘されている。
今回、DNA修復との関連について研究報告を行ったのは、米シアトルにある「フレッド・ハッチンソンがん研究センター」のパービーン・バッティ博士らの研究グループ。2017年6月26日付で、英環境労働学の専門誌のウェブサイト版に論文を寄せた。
同センターの冠名「フレッド・ハッチンソン」は、元大リーグ選手でシンシナティ・レッズ監督時代にがんで亡くなった。
バッティ博士らのグループは今回以前の研究で、日中の睡眠では、尿による「8-OH-dG」という物質の排せつが少なくなることを指摘していたが、この「8-OH-dG」が実は身体がDNA修復をした際に発生するものだった。尿中の同物質のレベルの低さは、身体のDNA修復の能力が阻害されているということ。今回の研究では、「8-OH-dG」の尿中のレベルは、睡眠ホルモンの「メラトニン」の分泌と関係があると仮説を立てて行われた。メラトニンは、日中の睡眠では夜に比べて分泌が減少する。
たえず損傷受けるDNA
今回の調査では、以前の研究で対象だったシフト勤務者223人のうちから、夜間のメラトニンの量が勤務の時と睡眠時の間で大きな差がある50人を選んだ。調査ではアルコール摂取や、睡眠時間など外部の要因で過大または過少な評価がされないようにした。
調査の結果、夜間に睡眠をとっている人と比べると、シフト勤務者のメラトニン分泌は減少しており、そのことは「尿中の8-OH-dGの排出と有意に関連している」ことが示された。
バッティ博士らは、調査結果が意味することはについて、メラトニンの不十分な分泌でDNAの損傷を修復する能力が減少し、それは、さらに高いDNA損傷レベルを細胞内に抱える可能性があると説明している。
DNA損傷は、細胞死および突然変異を誘発するため、さまざまな病気の原因になるという。また損傷は、放射線や紫外線、あるいは化学物質などの外的要因のほか、細胞の代謝過程で出る活性酸素などの内的要因で、たえず起きており、細胞死などから老化、がん化を引き起こす。損傷がどのような病気に関連していくかは分かっておらず、DNA修復の役割は重要。
バッティ博士らは、今回の研究で示されたメラトニンの効果が裏付けられれば、シフト勤務者の発がん性のDNA損傷を減じるために、メラトニンを補充する可能性が探られるべきと主張している。