映画の制作・配給、映画館運営大手の東宝の株価が上昇局面に入り、バブル期の1990年以来、27年ぶりの高値をつけている。2017年2月期は「君の名は。」や「シン・ゴジラ」が大ヒットしたほか、「名探偵コナン」「妖怪ウォッチ」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「ポケモン」といった定番アニメシリーズも好調で、連結純利益は5年連続で過去最高を更新。東宝は2018年2月期は大ヒットの反動で減収減益を見込んでいるが、株式市場で「控えめではないか」との見方が出ていることが株価を引き上げているようだ。
東宝の2017年2月期連結決算では、売上高は前期比1.8%増の2335億円。本業のもうけを示す営業利益は23.4%増の502億円、純利益は28.7%増の332億円といずれも2ケタ増を記録した。
「自前主義」を強化
2017年2月期には「君の名は。」「シン・ゴジラ」のほか、「名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)」「妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!」など定番アニメを含めて計29本の映画を共同制作。これらを含め計49本を配給した。自社配給作品のほかに米ディズニーアニメ「ファインディング・ドリー」や、「バイオハザード:ザ・ファイナル」といった話題作も系列映画館で上映。その結果、2017年2月期の系列映画館入場者は前期比7.5%増の4689万人となり、映画事業の売上高は前期比2.1%増の1545億円、営業利益は29.5%増の337億円だった。
売上高の伸び以上に利益が伸びている背景には、東宝が「自前主義」を強化していることがある。過去10年で映画の自社配給、映画館のスクリーン数をそれぞれ2割近く増やした。自前でやると成功した場合の取り分は大きくなるため、稼ぎが増えたというわけだ。2015年からは3D映像に合わせて座席が動く、入場料金が通常の2倍の体験型映画館を増やしており、こちらも地道に利益に貢献している。
「上方修正の常習者」
東宝の場合、かつて全国にたくさんあった映画館の跡地を利用した不動産事業も存在感がある。映画がヒットするかどうかは予測しがたいだけに、業績を下支えする重要なセグメントだ。2017年2月期は売上高が前期比1.1%減の614億円だったが、営業利益は13.8%増の168億円を確保した。利益の額は大ヒットに恵まれた映画事業の半分にあたる。もう1つの柱は帝国劇場などで上演する演劇だが、2017年2月期の売上高は155億円、営業利益は32億円にとどまり、屋台骨を支えるほどではない。
一方、2018年2月期について、東宝は売上高が前期比1.9%減の2292億円、営業利益は18.6%減の409億円、純利益は11.0%減の296億円と減収減益を予想する。ただ、東宝は期初の業績見通しを固めに出すのが特徴で、「上方修正の常習者」であることを投資家は知っている。すでに4月公開の「名探偵コナン から紅の恋歌」といった自社配給の定番アニメのほか、やはり4月公開の米ディズニー「美女と野獣」実写版がヒットし、映画館の稼働率が高まっている。今夏には「宮﨑駿監督の後継者」とされる米林宏昌監督の最新アニメ「メアリと魔女の花」が公開される。こうした足元の状況も好感され、東宝株は6月20日の取引時間中に3510円と27年ぶりの高値をつけ、週明け後もさらに上値を追う展開になっている。