インドへの原発輸出を可能にする日印原子力協定が、先の通常国会で承認された。両国の国内手続きを経て、早ければ2017年7月中にも発効する。核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドに原子力関係技術を移転することには、平和利用が本当に担保できるのか、などの懸念も出ているが、安倍晋三政権は成長戦略の一環として原発輸出の拡大を目指しており、反対論を抑え込んだ形だ。ただ、東芝が海外原発事業から撤退を決めるなど原発輸出への逆風を跳ね返すのは容易ではない。
NPTは核兵器の不拡散、原子力の軍事転用を認めない多国間の条約で、米英仏露中の5か国にだけ核兵器保有を認めている。インドは5か国独占を不公平としてNPTに加わらず、独自に核実験をして核兵器保有国になった。ただ、自前技術を持たない原発は輸入したいとして、2008年9月に「核実験モラトリアム(一時停止)」を宣言している。そこで具体的に必要になるのが、原発の輸出入などに当たり、資機材や技術の軍事転用や第三国への横流しを防ぐため、各国間で個別に結ぶ原子力協定だ。
安倍首相の肝入り
今回の日印協定では、移転された核物質や技術を核爆発装置開発に使用しないよう定めているほか、移転されたウランを濃縮度20%以上にする場合は、供給側政府の同意を求めた。問題はインドが核実験を行った場合。協力を停止する規定が協定本体にはなく、付属文書に記載されだけ。臨界前核実験をした場合も、政府は協力を停止すると明言していないため、協定を審議した参院外交防衛委員会では、民進党の提案に与党も応じ、「臨界前核実験を行った場合に協定を終了する」などと謳った決議が可決される異例の展開になったほど。被爆地長崎県の被爆者団体が協定可決に抗議するなど、唯一の被爆国だけに、批判は収まらない。
そもそも日印協定は、原発輸出を成長戦略の一つの柱と位置付ける安倍首相の肝入りで結ばれた。インドでは22基の原発が稼働しているほか、建設中も5基ある。インド政府は2050年に電力需要の4分の1を原子力で賄う計画といい、「原発建設ラッシュが見込める有望な市場で、日本の輸出余地は大きい」(経済産業省筋)との期待がある。
ただ、海外の原発事業のリスクは高まっており、日本企業の意欲もしぼみがちだ。そもそも福島第1原発事故の後、原発の建設費用が上昇し、海外の計画見直しが相次いでいる。
東芝は海外原発事業から撤退
東芝の経営不安も影を落とす。日印協定締結の約半年前の2016年6月、米印両政府は東芝傘下の米原子力子会社、ウエスチングハウス(WH)がインドで原子炉6基を建設する計画で基本合意しており、この事業に東芝から部品が供給できないのは困るというのが、日印協定を急いだ大きな理由だった。そのWHは実質的に経営破綻し、東芝は経営危機に直面し、海外原発事業から撤退する事態に陥っている。
インド固有の問題として、原発事故が起きた場合、電力会社がメーカーに賠償を請求できるとする法律がある。巨額の賠償責任を負うリスクがあるわけで、日本メーカーの間には期待と不安が交錯する。
「器」は整ったが、中身が注がれるか心もとない、というのが実態だ。