国家戦略特区を活用した加計(かけ)学園による獣医学部の新設問題で、安倍政権の「方針転換」が波紋を広げている。
2017年1月の告示では、獣医師会の要望を反映する形で新学部の設置について「獣医学部の空白地に限る、1校に限る」などと要件をつけていたが、安倍晋三首相は6月24日の講演で「地域に関係なく2校でも3校でも」と発言。野党から「これまでの説明を根底からひっくり返す発言」だという批判が出ると、菅義偉官房長官は、これまでの規制は「根拠が明確にはない」と主張し、「獣医師会」「農水省」「文科省」の3者について「大反対した」「岩盤規制」「抵抗勢力」などと罵倒。獣医学部以外にも「すべての分野」で規制緩和を進めると主張した。
「地域に関係なく、2校でも3校でも」
発端は安倍首相が6月24日に神戸市内で行った講演だ。加計学園の問題について、
「1校だけに限定して特区を認めた中途半端な結果が、結果として国民的な疑念を招く一因となった」
として、今後については
「地域に関係なく、2校でも3校でも意欲のあるところには、どんどん獣医学部の新設を認めていく」
と述べた。山本幸三・地方創生担当相は5月30日の記者会見で
「(告示で特区について定めた)制度化に当たり、獣医学部の空白地に限る、1校に限ると要件を付しているが、いずれも獣医師会等の慎重な意見に配慮して、私が決断し、付したもの」
だと説明していた。
民進・野田幹事長「従来の説明とは全く異なる見解」
安倍氏の発言はこれをひっくり返した形で、民進党の野田佳彦幹事長は6月26日の定例会見で、
「これまでの説明を根底からひっくり返す発言で、総理の焦りを強く感じる発言」
「だいたい、(獣医師の需要動向を考慮するとしていた閣議決定の)『石破4原則』はどうなちゃったのかと思う。需給の問題など含めて丁寧な議論があったはず。それを『総理の意向で行政をねじ曲げたのではないか』という疑いが強まり、その批判が余りにも強いので、今度は従来の説明とは全く異なる見解を、思い付きでまた言っている」
などと批判した。
これを受ける形で菅官房長官も反論しているが、その内容は少しずつ変化している。6月26日午前の会見では、特区基本会議の民間議員が
「一貫して1校などと限ることなく、広く門戸を開くべきとの立場」
だとして、
「そうした獣医医学部新設にあたっては、いわゆる4条件に照らして整合的かどうか 検討することになるだろう」
と、4条件は堅持するとの立場を表明。その上で次のように話し、定員割れのリスクには楽観的な見解を示した。
「具体的に手を挙げる学校があるか現時点では分からないが、現実的問題として、全国で45%近くの私立大学が定員割れしている。そういう中にあって、獣医科大学全体の倍率は15倍ある。こういうふうに承知しており、引き続き手を挙げる学校というのはあるのではないか」
菅長官「まさに抵抗勢力ですよ」
だが、翌6月27日午前の会見では、「1校に限る」ことを定めた告示を撤廃する可能性について問われ、撤廃するかどうかは明言しなかったものの、「1校」の縛りは妥当ではないとの主張を展開。「4要件」はすっかり影を潜めた。
「そもそもですね、52年間獣医学部が設置されなかった。何故かと言えば、まさに岩盤規制と言われる獣医師会、そして農水省、文科省が大反対したからじゃないですか?まさに抵抗勢力ですよ。そういう中で、規制の根拠、これは明確にはないんですよ。そうした根拠がないことが、それだけ維持されてきている、このことがやはり問題だと思っている」
「安倍政権としては、まさに岩盤規制を突破していく、その改革の中でまず1校を認定したわけだから、そこを突破口にして広げていくというのは、なにも獣医学部だけではなく、すべての分野において行っていこうという方針」