サッカー天皇杯で、国内7部リーグに相当する「いわきFC」がJリーグ1部(J1)の北海道コンサドーレ札幌を撃破する快挙を達成した。それも5得点を奪う大勝だった。
なぜいわきFCは勝てたのか。クラブの体制を取材した。
「札幌さんに勝つことがジャイアントキリングではないと伝えました」
天皇杯2回戦、いわきFC対札幌の一戦は2017年6月21日に札幌厚別公園競技場で行われた。90分のスコアは2-2で延長戦に突入すると、延長前後半計30分でいわきFCが3発決める底力を見せ、最終的に5-2と大差の勝利になった。
いわきFCは福島県社会人サッカーリーグ1部に所属しており、同リーグはカテゴリー的に、1部のJ1に対して7部に相当する。それだけで見れば札幌とのクラブ格差は大きいが、試合後にいわきFCの田村雄三監督がクラブ公式サイトで発表したコメントには、こんな言葉がつづられている。
「語弊がないように受け取っていただきたいのですが、試合前のMTG(ミーティング)で(コンサドーレ)札幌さんに勝つことがジャイアントキリングではないと伝えました。『日本のトップリーグにいるチームだけど、お前たちは日々厳しいトレーニングをして、フィジカルを鍛え、その後仕事をして、本当に大変だと思うけど、それに向き合って取り組んでるんだから絶対にやれる。』と、送りだしました」
いわきFCは、スポーツ関連事業を手がけるドーム(本社・東京都江東区)が15年12月に立ち上げた「いわきスポーツクラブ(SC)」(本社・福島県いわき市)が運営している。J-CASTニュースの取材に答えたいわきSCの広報担当者によると、同クラブはドーム社のバックアップを全面的に受けている。
ドーム社は(1)米スポーツ用品メーカー「アンダーアーマー」の日本での正規事業(2)スポーツサプリメント「DNS(Dome Nutrition System)」の開発・製造・販売事業(3)テーピング製品などのスポーツメディカル事業(4)フィジカルトレーニングのサポートを行う事業――の4つを展開しており、それらのノウハウがいわきFCに生かされている。
「J1のクラブより充実しているかもしれません」
いわきFCは「日本のフィジカルスタンダードを変える」という理念の通り、フィジカルトレーニングに力を入れる。前出広報担当者によると、選手は平日午後はアンダーアーマーの物流センターの社員として仕事をしており、サッカーに充てられるのは午前の2~3時間のみだが、管理は徹底されている。1週間はおおよそ、月曜がオフ、火~木曜はフィジカルトレーニング主体の練習でボールを使うのは30分ほど、金・土曜はサッカー主体の練習、日曜が試合。ドーム社の専門トレーナーが練習につくほか、アスリートのために考えられた食事が朝昼晩3食ドーム社から提供される。DNSのサプリメントも補食として取り入れている。
サッカー環境の整備レベルについて担当者は「もしかしたらJ1のクラブより充実しているかもしれません。ベンチマークとしてはオランダのAFCアヤックスがあげられます。人材育成や平均年齢、ホームタウンの人口規模もマッチし、模範になる部分が多いです」といい、チーム作りは世界基準だ。
「スポーツを通して社会を豊かにしたい思いで私たちはサッカーに取り組んでいます。目標は『いわき市を東北一の都市にする』こと。まちの中心にスタジアムができて、スポーツで人々が感動・興奮するようになっていかないと、日本ではスポーツの産業化も進みません」
目指すは天皇杯優勝かと尋ねると、「一戦一戦の勝ちよりも、やるべきサッカースタイルを貫いていきたい。優勝があるとすれば、その先についてくるものだと思います」と話していた。