日本郵政グループのゆうちょ銀行は、認可を申請していた「口座貸越による貸付業務」などの新規業務について、金融庁長官と総務大臣から、2017年6月19日に認可を得た。
ゆうちょ銀行が無担保融資を手がけるのは初めて。集めた貯金の多くを国債や株式などで運用している同行にとって、日本銀行のマイナス金利政策による超低金利は収益悪化に直結する。新たな資金運用先として、「突破口」を開いた。
ゆうちょ銀行「カードローンではない」
無担保融資(口座貸越による貸付業務)の対象は、ゆうちょ銀行に通常貯金の口座を有する個人。あらかじめ最大50万円(契約1年目は原則30万円程度を想定)の貸付極度額を定め、貯金残高が足りない場合でも自動的に融資することで、ATMで現金を引き出したり、公共料金や買い物代金を貯金口座から引き落としたりできる仕組み。同行は、「お客さまへの利便性の向上が目的です」と説明する。
これまで、ゆうちょ銀行の融資業務は、定期貯金を担保にした貸し出しに限定されていた(銀行などの総合口座と同じ仕組みで、定期貯金金額の90%を融資する)。すでに、通常貯金に定期貯金担保融資がセットされている場合は、そこから貸し出していく。
現在、銀行や信用金庫でも同じ仕組みの融資を取り扱っていて、ゆうちょ銀行は2019年度末までに開始したい考えだ。
一方、ゆうちょ銀行の無担保融資の参入に、銀行などは反発。なかでも、信用金庫は地域が限られ、ゆうちょ銀行との競合が最も激しく、影響を受けやすいこともあり、執拗に抵抗する。
郵政民営化委員会が新規業務に関する意見を公表した6月14日、全国信用金庫協会は、民間金融機関との「公正な競争条件」が確保されない状況が続いていること、また、ゆうちょ銀行の「口座貸越による貸付業務」が、すでに民間金融機関が取り扱っている「カードローンとほぼ同等の機能を有しており、すでに市場が飽和気味である消費者ローンへの参入であること」を理由に、反対を表明した。
たしかに、ゆうちょ銀行の無担保融資で、ATMからお金を借りる(現金を引き出す)ときに使うカードはキャッシュカードだが、その利用方法は「カードローン」と変わらない。銀行などのキャッシュカードには、カードローンやクレジットカード機能が搭載されている1枚化カードもあり、「カードローン」との違いは、貯金者にはわかりづらい。
ゆうちょ銀行は、無担保融資とカードローンとの違いを、「まず、通常貯金を持っているお客さまが対象です。カードローンは口座がなくてもつくれますから、この点が違います。さらに、貸付極度額が最大50万円と低いことがあります。カードローンは高額な極度額で繰り返して引き出せます」と説明する。
同行は、新規契約件数で年間30万件、業務開始後の5年間で150万件、約880億円の残高を想定している。
2012年には認めなかった
一方で、銀行などの「カードローン」への風当たりが強まっている。
3月17日、信用金庫業界との意見交換会で、金融庁監督局の西田直樹審議官は、カードローンについて、「監督指針にそった適切な業務運営が行われているか、いま一度よく点検していただき、仮に改善点などがあれば、ぜひ改善に向けた取り組みをお願いしたい」と、クギを刺した。
ここ数年、マイナス金利下でも高い金利収入が期待できるカードローンを、銀行や信用金庫はこぞって伸ばしてきた。銀行などのカードローンが、貸金業者に課せられている「利用者の年収の3分の1までしか貸せない」総量規制の対象外にあることもある。
銀行などのカードローンの積極推進が多重債務者を増やしているとの批判が高まっており、金融庁としては「口頭指導」したわけだ。
ゆうちょ銀行が郵政民営化委員会に提出した資料によると、個人向けの貸し出し(住宅ローンを除く)の市場規模は、2016年12月末時点の貸出残高で、銀行・信用金庫が6兆266億円(前年比9%増)、貸金業者が4兆403億円(1%増)。その多くが、カードローンによる貸し出しという。
また、金融庁が17年6月12日に開いた多重債務問題などに関する懇談会で示した調査資料では、銀行のカードローン利用者のうち、3年以内に貸金業者からもお金を借りた経験のある人の割合が63.7%にものぼることがわかった。
全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)は6月15日の記者会見で、銀行のカードローンへの「規制は不要」との認識を示したものの、「一部に行き過ぎがあった」ことは認めている。3月には全銀協として、配慮に欠けた広告や宣伝の抑制や審査体制の見直しなどを申し合わせた。
そもそも、ゆうちょ銀行は2012年に住宅ローンやカードローンなどの融資業務への参入を申請したが、審査体制の未整備を理由に金融庁が認めなかった経緯がある。「なぜ、いま」――。銀行や信用金庫は金融行政への不信感を募らせている。