2017年3月期の銀行決算は、経営が危ぶまれる状況を炙り出した。
銀行にとって、2017年3月期決算は日本銀行が16年2月にマイナス金利を導入してから、初めての通期決算。その結果、銀行は収益の激減により、経営危機に直面していることが浮き彫りになった。
本業から得られる収益、地銀で2割も減少
銀行の実質業務純益(本業の収益から国債等債券損益などを差し引いた)は、都市銀行(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行)は前期比で13.2%の減少となった。
減少の要因は、日銀のマイナス金利。預貸金利ザヤ(貸出金利-預金金利)の縮小が一段と加速したためだ。預貸金利ザヤの縮小による利益の減少分をカバーするには、貸出量の拡大、つまり融資のボリュームを確保していかなくてはならないが、結果的に貸出量を稼げず、利ザヤ縮小の影響を十分にカバーできなかったわけだ。
実質業務純益の減少がより大きかったのは地方銀行で、64行の合計値は前期比19.8%減。約2割も、銀行本来の業務から得られる収益が減少していることが明らかになった。第二地方銀行41行の合計値も同16.0%減だった。
こうした苦境に対して、地銀や第二地銀では、有価証券運用などによる収益の確保を進めているものの、これに対して金融庁は、「地銀以下の業態による有価証券運用には、運用体制面や運用ノウハウなどで問題のあるところも多い」(金融庁幹部)として、有価証券運用の検査を厳しくする方針を打ち出している。
しかし、こうした事態に当の地銀界では反発も強い。マイナス金利下で融資による収益が伸びないことは当然。そのうえ、貸出先の減少が拍車をかけており、銀行経営は厳しさを増すばかり。そのため、収益確保のために有価証券運用を活発化させるのは、当然の流れ。
それに対して、金融庁から厳しい指導が行われれば、「銀行は収益源を失うことになる」(地銀幹部)との考え方は多い。
なかでも、「金融庁が進める無担保・無保証融資の推進や、新規事業に対する積極的な融資というのは、大きな貸出リスクを内包している。有価証券運用におけるリスクを金融庁かは厳しく指摘するが、金融庁が進めるように指導しているこれらの融資も相当のリスクがあり、危険性は変わらない」(別の地銀幹部)と、反発する。
マイナス金利の継続は「安倍政権のため」
日銀が2017年4月に発表した「金融システムレポート」では、「預貸利ザヤの低下傾向が続く中で、金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融面での不均衡が蓄積し、金融システムの安定性が損なわれる可能性がある」と指摘。そのうえで、「収益力の低迷が続き、損失吸収力の低下した金融機関が増えれば、金融機関全体でみた金融仲介機能が低下して実体経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられる」としている。
地銀の中からも、「これ以上に収益力が低下するようであれば、地域経済にとって十分な融資を実行する体力がなくなる可能性がある。マイナス金利下における金融機関の収益激減は、金融庁が求める融資を実行する能力の減退も意味する」(地銀幹部)という声が聴かれる。
しかし、こうした地銀界の声が金融庁の方針に反映されることはなく、むしろ金融庁は自らの打ち出した方針を強力に進めている。
金融庁の強気の姿勢に対して、地銀界からは「近年、金融庁は金融行政の問題点についても積極的に指摘してほしいと言ってはいるが、その姿勢は安倍政権のための金融行政であり、決して銀行のための行政にはなっていない」(別の地銀幹部)と手厳しい意見もある。
銀行の収益減少は今のところ、確かに危機的な状況にまでは至っていないようだ。しかし、マイナス金利政策が継続されるようであれば、利ザヤ縮小による利益減少という「悪循環」がさらに進み、銀行の収益はいずれ限界を迎える可能性がある。
2017年3月期の銀行決算は、明らかにこうした予兆を示している。