岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
NYの「例外」スタテン島に行ってみた(その3)

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「島民は変わり者」という見方への憤慨

   トランプを支持する隣の住人との間に、亀裂が生じていないのか。

   「亀裂? ま、ちょっとな」とヴィンセントが笑う。

   妻は言う。

   「隣の住人に、『トランプは環境問題も二の次だし、あなたの子供の将来を滅茶苦茶にするのよ』って言ったら、黙ってたわ。I told him to shut up.(黙んなさいよ、って私が言ったんだけどね)。彼のことは昔からよく知ってるし、私は彼の母親くらいの年齢だから」。

   ヴィンセントは、反トランプの旗のことで嫌がらせを受けたことはない、と言う。

「トランプに投票した人の多くは後悔して今、頭を抱えているんじゃないかな」

   彼の自宅のすぐそばの家の前にも、反トランプの集会でよく叫ばれるスローガンが書かれたサインがあった。

「Here We Believe Love is Love No Human is Illegal...Women's Rights are Human Rights...(私たちが信じること 愛は愛 不法な人などいない...女性の権利は人権...)」

   町ですれ違った別の反トランプの女性は、「島民以外のニューヨーカーは、スタテン島=トランプ支持だと思っているかもしれないけれど、そう決めつけてほしくないわ」と話す。

   「(トランプ支持層が厚い)スタテン島は、ニューヨークではない」などと、変わり者呼ばわりされることには、トランプ支持者も憤慨する。

   「スタテン島よ、いい加減に目を覚ませ」とばかりに、2017年5月、こんな出来事があった。

   トランプ大統領のニューヨーク訪問に抗議し、反トランプ派の男性らが、マンハッタン島とスタテン島を往復するフェリーの手すりに、「#NOTTRUMPNYC」 と大きく書かれた長さ8メートルのバナーを掲げたのだ。

   しかし、ヴィンセントはスタテン島の今後を、このように予測する。

「この島の北岸は、民主党支持層が厚い。あの辺りは低所得者も多く、犯罪率も高い。これまで取り残された地域だったけれど、今、再開発が進んでいる。金のある若者たちがマンハッタンから移り住み、これからどんどん共和党支持者が増えていくよ。共和党の政策は、金持ちに有利だからね」

   この島では昨年の大統領選の前に、こんな事件も起きていた。

   (この項続く)(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社 のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓 を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1 弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法 の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育 事情」(ともに岩波新書)などがある。


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