「トランプ支持の旗を掲げる家と、反トランプの旗を掲げる家が、隣同士に並んでいるよ」――。町の人がそう教えてくれた家の前に行ってみると、1軒の家の前で家主が庭仕事をしていた。
その町は、ニューヨーク市スタテン島の南岸にある。この島は、マンハッタンから無料のフェリーで南西に25分。極端に民主党寄りのニューヨーク市のなかで、例外的にトランプ支持率が高い。
Trump Not My President とMake America Great Again
島の面積は、香川県の小豆島ほど。島でフェリーを降り、電車に40分間、乗る。この辺りの町は、2016年の米大統領選でトランプ氏への投票率が80%近かった。
男性の家の前に建てられたポールには、上に星条旗、そのすぐ下に紺色の地に白抜きで「Trump Not My President(トランプ 私の大統領ではない)」と書かれた旗が翻っていた。「Trump」の文字は、大きな赤のバッテンで消されている。
旗を見上げながら、「お隣の家はトランプ支持なんですね」と声をかけると、「そう。うちがこの旗を掲げたら、隣も旗を掲げたよ」とその男性、ヴィンセント(68)が笑顔で答える。
右隣の家に、その日、旗は掲げられていなかった。強風の日に取り込んでしまったらしい。
「それともうちの旗のせいかな」と笑い、ヴィンセントは続ける。
「隣は、『Make America Great Again.(アメリカを再び偉大に)』と書かれた旗だ。America IS great.(アメリカはすでに偉大な国だよ)。トランプは、政治家でもなければ、軍人としてこの国に仕えたこともないビジネスマンだ。そんな人間に言われる筋合いはない。いいかい? 私はベトナム戦争で戦った退役軍人だ。警官として21年間、ニューヨーク市に仕えもした」
2017年2月に安倍首相がトランプ大統領を訪ねた時の印象を、ヴィンセントはこう話す。
「安倍首相はトランプ氏と比べ、ずって洗練されていて、教養がある。国民の信頼もあるだろう。私は自分の国の大統領を、恥ずかしく思っている」
トランプ支持者が圧倒的に多いこの町で、どんな思いで旗を掲げているのだろうか。
「自分の主張を表現できることを嬉しく思っているよ。アメリカ人として当然の権利だからね。『その旗、いいね』と声をかけてくれた人がいたよ」
ヴィンセントがしばらく戻ってこないので、妻(62)が様子を見に家から出てきた。
彼が、「旗のことで声をかけられたんだ」と話すと、妻が笑顔で答えた。
「夫がインターネットでこの旗を見つけて、大喜びしていたの。『買ってもいいけど、ちゃんと掲げてちょうだいよ』って頼んだわ。私もまったく同感だから」