最近、ランニング愛好者の間で、タイツを着る人が増えている。市民マラソンの会場では、参加者のほぼ9割が着用し、「短パン生(なま)足」で走ると目立って恥ずかしくなるくらいだ。
筋肉を締める圧縮タイプには、筋肉の無駄な動きをなくし、タイムを向上させる効果があると思われていることもタイツ人気に拍車をかけている。ところが、タイツはタイムの向上や疲労軽減には役立っていないというトホホホな研究が2017年6月1日、米デンバーの米国スポーツ医学会で発表された。
短パンと機能性タイツで走って比較すると
ランニング用タイツは、女性の間にランニングブームが広がるにつれ、オシャレの1つとして人気になった。ランニングスカート(ランスカ)の下に、スパッツやレギンスを着たのが始まりだ。やがて、紫外線防止の効用もあって男性にも広がり、筋肉を締めつける「機能性タイツ」をスポーツ用品メーカーが出し始めた。関節や筋肉をサポート、特にランニング中に筋肉が振動すると、エネルギー消費が増えるため、足の疲労を少なくする効果をうたっている。
この研究をまとめたのは米オハイオ州立大学のアジット・シャウドハリ准教授らのチームだ。研究発表を報道した2017年6月1日付CNNニュースや6月2日付CBS放送によると、研究チームは、ベテランの男性ランナー17人に2種類の機能性タイツと一般的なランニングショーツを着用させ、トレッドミルで走ってもらった。ウエアはスポーツ用品メーカー、ナイキから提供された。しっかりと筋肉を締める高強度の圧縮タイツ、ゆったりと筋肉を締める低強度の圧縮タイツ、そして短パンのショーツだ。
その3タイプのウエアを毎日1つずつ身に着け、30分全力で走った。3日間にわたる実験で、ランニング中の心拍数を測り、動作をモーションキャプチャーで記録、筋肉の振動を分析した。また、ランニングの前後に医師が垂直跳びの高さと筋肉の柔軟度を測り、筋肉の疲労度を評価した。
その結果、「驚くべき発見をした」という。圧縮度の高い機能性タイツは筋肉の振動を大幅に減少させた。しかし、筋肉疲労は少しも軽減しないことが分かったのだ。シャウドハリ准教授は、CBSの取材に対しこう語っている。
マラソンは精神的な耐久力のウエイトが大きい
「短パンのショーツを着たランナーの足はプルプルと振動を続けました。機能性タイツを着けると、確かに筋肉の振動は大幅に減りましたが、ランナーの走行距離を伸ばしたり、速度を上げたりするのに役立つわけではないことが数字で示されたのです。3つのタイプのウエアの間で、タイムや筋肉の疲労度はほとんど変わりませんでした。筋肉が振動すると、筋肉が収縮してより多くのエネルギーが消費されるため、理論的には機能性タイツは筋肉疲労が少なくなるはずです。しかし、私たちの研究では、ランナーの成績はタイツを着ても着なくても同じだったのです」
これはいったい、どういうことなのだろうか。シャウドハリ准教授はこう推測する。
「長距離走の大きな部分は、肉体的な耐久力だけでなく、精神的な耐久力が占めているのかもしれません。精神的な耐久力は測ることができません。ただし、今回の研究ではタイツの着用に問題があることを示す知見はまったくありませんでした。長距離ランナーにとっては、ほんのわずかな感覚の違いが重要です。タイツの感覚が好きな人なら、私たちが測定できなかった部分で圧縮タイツがランナーの役に立っている可能性はあります」
この研究について、自分でも35時間ノンストップで走り続けた記録を持つスポーツ医学の専門医ジョーダン・メッツル氏は、CNNの取材に対しこう語った。
「この調査結果に、私は少しも驚きません。ランニングは、身体的な訓練が重要ですが、精神的な要素がもっと大きいのです。タイツを着ると、自分の筋肉が守られていると感じる人々には、タイツは心理学的な効果を発揮するでしょう。タイツを必要と感じない人は、自分自身で自分を守ればいのです」