2017年6月15日は、朝に「共謀罪」の構成要件を厳しくした「テロ等準備罪」を新設する法案が成立したのに続いて、午後に文部科学省が加計学園をめぐる追加調査の結果が発表された。菅義偉官房長官が「怪文書のようなもの」と述べていた、「総理の意向」などと記された文書が実際に文科省内に存在していたことが明らかになった。
通常であれば、いずれも「1面トップ」級のニュースだが、6月16日朝刊の紙面(いずれも東京本社最終版)では各社とも2つのニュースを並列する形で報じざるを得なくなった。「共謀罪」では、法案に批判的な朝日新聞・毎日新聞と、法案に理解を示してきた読売新聞・産経新聞の論調の違いが改めて鮮明になった。「加計文書」をめぐっても、首相の意向と書かれた文書の存在の問題点を指摘する朝日・毎日に対して、産経が「文書存在と首相関与 別の話」との見出しを掲げた。
朝日「民主主義の荒廃」
朝日新聞の1面トップは、文科省の発表結果から「『官房副長官が指示』メール」を見出しに取り、2番目の項目に「『共謀罪』法 成立 刑事司法の大転換点」の見出しで「共謀罪」を扱った。これに加えて、「民主主義の荒廃した姿」と題した長谷川玲・東京社会部長名の記事で、「説明を尽くして理解を求めようとする民主的な手続きの放棄」などと可決を非難。2~3面の総合面には、それぞれ
「官邸関与 深まる疑念」
「『共謀罪』疑問山積み」
の見出しで懸念を報じ、社説は「権力の病弊」をテーマに「『共謀罪』市民が監視を」「『加計』解明これからだ」の2本を掲載した。社会面では「沈黙しない」の見出しで「共謀罪」反対派の声を伝え、加計文書は「『怪文書』一転 あった」の見出しだった。
毎日新聞の1面は
「『加計』文書存在 文科相認め陳謝」「『共謀罪』法成立 採決強行 国会閉会へ」
の2本が目を引く。総合面でも
「安倍政権 また強引手法」「『総理ご意向』真実味」
と政権を追及し、社説は
「『共謀罪』法の成立 一層募った乱用への懸念」
「加計文書の再調査結果 『総理の意向』確認は重い」
の2本を掲載。社会面は「共謀罪」について「権力こそ監視対象」の見出しで1940年代の言論弾圧事件の事例を紹介。「加計文書」の見出しは「『ない』一転『あった』」と朝日と同様だった。
読売1面トップに「組織犯罪 未然に防止」
朝日・毎日とは対照的に、読売・産経は「共謀罪」法案成立を高く評価した。読売新聞の1面トップは「組織犯罪 未然に防止」と法案成立の意義を前面に押し出し、2番目の項目で「加計問題『総理の意向』文書存在」とした。総合面では「『加計』初動に甘さ」と政府の対応を批判する一方で、「共謀罪」は「テロ抑止へ一歩」の見出しで改めて評価。社説には「共謀罪」について「凶行を未然に防ぐ努力続けよ 法に基づいた適正捜査の徹底を」の見出しで論じた。社会面では、「共謀罪」について「テロ準備罪 歓迎と懸念」と両論併記し、「加計文書」は「『確認できず』 一転」と、他紙と同様だ。
産経新聞の1面トップは
「テロ準備罪法 成立 組織犯罪防止 条約締結へ」
の見出し。法案が成立した直後の参院本会議の写真のすぐ下には、「こんな国会で改憲発議できるのか」と題した石川文登・政治部長名の記事で、野党の抵抗戦術を非難した。加計文書については「文書存在と首相関与 別の話」と題した解説記事で、
「前回調査のずさんさは否めないが、ただちに『首相の関与』を示す内容ではない」
とした。総合面では「共謀罪」について
「牛歩展開も...自民、緻密な策略 22時間ちぐはぐ国会」
と解説し、野党側のつたなさを強調。「加計文書」については、
「焦る内閣府×文科省慎重 岩盤規制改革で攻防」
と、省庁間の関係に焦点を当てた。
産経は「令状なしの通信傍受」主張
社会面では、「共謀罪」について「個人のテロ 対応できず」の見出しの記事で、
「諸外国のような令状なしの通信傍受の在り方についても、議論を始めるときに来ている」
などとして、今回成立した法案だけでは不十分だと主張。「加計文書」については
「作成者『発言真意は不明』 記憶曖昧 全容解明は遠く」
とした。社説にあたる「主張」の欄では「共謀罪」について「国民を守るための運用を」の見出しを掲げた。
一方、経済紙の日本経済新聞のトップ項目は「タカタ民事再生法」だったが、2番目の項目に
「共謀罪」をめぐり「安倍1強 浮かぶリスク」と題して、安倍政権の「戦術の誤算があった」などと指摘。社説でも
「あまりにも強引で説明不足ではないか」
と批判。社会面では共謀罪をめぐる国会デモの様子や、2人の識者の声を両論併記した、
「加計文書」については、社会面で「『前回調査は合理的』文科相、陳謝でも強弁」の見出しで、
「文書の内容や外部に流出した経緯の調査を否定し、いち早く幕引きしたいとの思いをにじませた」
と批判的に伝えた。