700頭の牛の顔と名前を覚えるマサイ族の若者
マサイ族の若者集団は、敵が襲ってきた時には牛や集落を守る戦士になる。ケガや死を恐れず勇敢に戦えるからだ。また、干ばつなどの自然災害が起こると、危険を冒し新たな生活場所を探す冒険の旅に出る。約6万年前、現代人の祖先は住み慣れたアフリカを飛び出し、様々な危険が待つ新天地へと旅立ち、地球上に繁栄しているが、無謀な大冒険を成し遂げられたのは人間にしかない思春期のおかげだと考えられる。この思春期の脳の性質を存分に発揮させる別の仕組みも、ギード教授らは解き明かした。
鍵を握るのは、思春期になると精巣や卵巣から分泌される性ホルモン。実は記憶力を劇的に高めることが分かってきた。記憶の中枢である海馬は、思春期には性ホルモンの作用で神経細胞同士のつながりが増え、記憶できる容量が増大する。さらに感情の爆発を引き起こす偏桃体が、海馬のすぐ隣にある。偏桃体で強い感情が生まれると、それが海馬を刺激し記憶を強力に促す。「キレる」というやっかいな感情爆発には、学ぶ能力を高める起爆剤の役割があるのだ。
マサイ族の若者たちも驚きの記憶力を持っていた。700頭以上の牛を飼っているが、すべての牛に名前をつけ、全員記憶しているという。どの牛も顔が黒く同じに見える。番組スタッフがスマホで牛たちの写真を撮り、リーダーのオレンタルワイ君に見せると、「▽▽▽」「×××」「○○○」とスラスラ言い当てた。お見事! 彼らはこの驚異的な記憶力を思春期にフル回転させ、生きる技術を習得していく。