経営再建中の東芝が進める半導体子会社「東芝メモリ」の売却手続きが、大詰めを迎えている。東芝幹部が示した優先交渉先選定の期限は2017年6月中旬。だが、期限が迫っても売却先の絞り込みは難航している状況で、関係者からは「本当に決められるのか」との不安の声も聞こえてくる。
「ウエスタンデジタル(WD)は今回も下りてこなかった。あの程度の譲歩案ではまったく話にならない」。6月9日、東芝本社で行われた東芝の綱川智社長と米国の半導体大手WDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)の会談結果を聞いた銀行関係者は、こう漏らした。
WDとブロードコム
今回の売却先選定でカギを握るのはWDだ。WDと東芝は四日市工場(三重県四日市市)で、NAND型フラッシュメモリーを共同生産している。WDは他社への売却に反対し、自社が東芝メモリの経営の主導権を握ることを強く主張し、売却の中止を求めて国際仲裁裁判所に仲裁手続きを申し立てるなど両社の関係は悪化。仲裁手続きの結果次第で売却が白紙に戻りかねないだけに、東芝にとってはWDとの協議を円満にまとめ、申し立てを下ろしてもらうことが最善の策だ。
WDは入札に正式には参加せず、独自に買収提案をしている。関係者によると、WDの買収提示額は1兆9000億円で、米ファンド、政府系ファンドの産業革新機構、日本政策投資銀行が組んだ「日米連合」への合流案を示しているという。2兆円規模の提案をしている他陣営に比べると金額面で見劣りする。WDのミリガンCEOはこれまでに数回、東芝の綱川社長との協議を重ね、一時は「WDが譲歩して合意できるだろう」との楽観論も流れたが、東芝幹部は「WDが折れたという事実があるなら聞きたい」などと、終始つれない態度。9日の会談で、WD側は一定の譲歩案は提示したものの東芝は納得せず、金融業界にも「WDとは決裂か」とあきらめムードも漂っている。
WDとの合意が難しいとなれば、東芝が次に見据えるのはどこか。その場合、有力視されるのは米半導体大手ブロードコムだ。ブロードコムは東芝と製品があまり重ならず、独占禁止法上の障害が少ないうえ、提示額は候補で最も多い2兆2000億円とされ、WDとの訴訟の面倒まで見ることまで提示しているという。東芝としては願ってもない提案だ。
迫る株主総会
だが、これに待ったをかけるのが経産省だ。「ブロードコムの実態はアメリカの半導体会社ではなく、買収を繰り返すシンガポールのファンド。四日市工場の人員もいずれリストラされるのではないか」という懸念があるからだ。経産省は当初から「技術流出を避け、四日市工場の生産と雇用が守られることが前提」と繰り返してきた。「2018年3月末の債務超過解消のため、それまでに売却を完了させ、かつできる限り高く売る」ことが目的の東芝にとって、経産省の横やりは迷惑な話だが、完全に無視もできない。
東芝は6月28日の定時株主総会までに優先交渉先を決定し、株主に報告したい意向だが、残された時間は短い。そうでなくても、独占禁止法の審査期間などを勘案すれば6月末がデッドラインとされる。銀行幹部は「株主総会までに交渉先が見えていないと総会が持たない」と危機感を募らせる。仮に6月中に決められなければ、その先に上場廃止も視野に入る。東芝の再建の行方を左右する局面は間もなくやってくる。