「老人福祉法」で義務付けられている福祉施設としての届出をせず施設を運営する、いわゆる「未届け有料老人ホーム(無届け介護ハウスとも)」の約7割が医療機関やケアマネジャーから紹介を受け入居者を受け入れている――。
医療や介護福祉に携わる専門職が、法令違反の施設を利用しているという驚きの実態が、「高齢者住宅財団」の発表した実態調査によって明らかになった。なぜこのような事態が起きているのだろうか。
介護が必要な人に介護が提供できていない
調査報告書を発表した高齢者住宅財団は、高齢者の住宅環境や実態の調査研究を行っている財団法人だ。同財団は近年問題となっている未届け有料老人ホームの実態について厚生労働省から調査委託を受けており、2017年3月に「未届け有料老人ホームの実態に関する調査研究事業 報告書」を発行、5月9日からウェブサイト上でも公開している
未届け有料老人ホームが問題視されるようになったのは、2009年に群馬県で「たまゆら」という未届け施設で火災が発生し、入居者に多数の犠牲者を出したことがきっかけだった。未届け施設は料金が安い反面、届出されていないために行政などのチェックが入りにくい状態にある。例えばスプリンクラーが故障している、耐震基準を満たしていないといった問題があっても改善されにくいのだ。入居者の虐待などが生じたとしても、やはり行政のチェックや監督の枠外にあるため、見落とされるリスクが高い。
しかし、厚労省の2016年の調査では全国にある有料老人ホーム1万2946施設のうち、少なくとも1207施設が未届け施設で、この数値は過去7年間で年々増加している。高齢者住宅財団はこのうち692施設にアンケートを送付し、225施設から回答を得て、今回の報告書を作成したという。
この中で、「入居経路・主な紹介機関について」複数回答で特に多いものを3つ挙げるよう求めた問いの結果は、「病院や診療所」が70.7%で最も多く、次に「ケアマネジャー」の68.9%、「地域包括支援センター」42.7%、「家族」35.6%となっている。
未届け施設は罰則はないものの法令違反。それがわかっていて、なぜ病院やケアマネジャーが紹介するのか。J-CASTヘルスケアが関東で介護施設を運営する団体に取材したところ、「在宅介護がなかなかうまくいかず、特別養護老人ホーム(特養)にも入りにくいことが大きな要因では」と話す。
「例えば高齢の入院患者が退院したものの、体が弱っていて介護が必要だとしましょう。自宅で在宅介護をするにも家族の不在や適切な在宅介護がなく、行き場のない人が出てきてしまいます。有料老人ホームに入るにも、経済的に苦しい人には無理な話でしょう。となると、病院やケアマネは無届け施設を紹介するしかありません。悪意があって紹介しているわけではなく、やむを得ずという理由が多いのではないでしょうか」
特養に行けばいいと思うかもしれないが入居するには要介護3以上が条件で、要介護1~2の人はショートステイのみ。そう簡単には利用できない。
報告書でも、「入居動機について」への回答は「ひとり暮らしで家族等の支援がないため」「病院から退院後、自宅に戻れないため」「介護が必要になったため」が圧倒的に多い。介護が必要な人に必要なサービスが提供されていないのだ。
自治体の指導も後手に
報告書には他にもさまざまな調査内容が書かれている。無届け施設の8割以上は株式会社や有限会社によって運営されており、施設の建物や土地は賃貸となっているところが多い。使用している建物は2010年以降に建築された戸建て住宅が多く、居住面積は1人あたり13平方メートルと、有料老人ホームの標準指導指針に示された最低面積基準ギリギリだ。
火災報知機やスプリンクラー、耐震構造など防災上の設備はほぼすべての施設が用意していると回答しており、今回の調査ではハード面で問題があるという施設は少ない。前述の取材に答えた介護事業者は、
「無届け施設が悪徳事業者というわけでもありません。有料老人ホームとしての要件をあと少しで満たすことができず、仕方なく無届けで運営しているという施設もあります。とはいえ玉石混合であることも確かなので、注意する必要があるのですが」
と指摘する。
しかし、入居者の状況を見ると「大半が自立している」と回答したのは10施設のみで、「要介護1~2が大半」は59施設、「要介護3以上」も43施設、「自立から重度者までさまざま」が77施設。さらに認知症患者は8割以上の施設におり、医療的ケアが必要な入居者も3割以上の施設に存在していた。
高齢者住宅財団や厚労省は未届け有料老人ホームに届け出を行うよう指導の必要があるとしているが、105か所の自治体を対象にした調査では「未届け施設に指導は行っていない」「公表していない」「存在を把握してない」との回答もあり、対応は進んでいない。