2022年度の暫定開業を目指している九州新幹線長崎ルート(博多~長崎)の先行きが、さらに厳しくなってきた。
このルートは、在来線と新幹線という、幅が違う2種類の線路を通ることができるフリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)の導入がカギだとされてきたが、このFGTの開発が遅れ、導入断念が現実味を帯びているからだ。仮にそうなれば、大幅なコストアップを覚悟で全ルートを新幹線のフル規格で整備するか、在来線とフル規格新幹線の間で乗り換える「リレー方式」のどちらかの選択を迫られる。これまでの計画でも、5000億円の総事業費に対して時間の短縮効果は30分未満。ただでさえ「無駄遣い」の声がある中、さらに新ルートをめぐる声は厳しくなりそうだ。
総事業費5000億円、短縮効果は28分
長崎ルートは、博多~長崎の全143キロのうち、博多~新鳥栖の約26キロを、すでに開通している九州新幹線鹿児島ルート(博多~鹿児島中央)と共用し、新鳥栖~武雄温泉の約51キロは在来線の線路を活用。そこから先の武雄温泉~長崎の約66キロは新幹線のフル規格の線路を新設する計画だ。新幹線のレール幅は1435ミリに対して在来線は1067ミリ。FGTの導入で複数の線路を一気に走り、時間短縮とコスト削減を両立させる構想だ。
22年の暫定開業時には、博多から武雄温泉まで在来線車両で走り、武雄温泉で新幹線車両に乗り換えて長崎に向かう「リレー方式」で開業。25年度までにFGTを全面導入して乗り換え解消を目指す。
それでも、新鳥栖駅の改造工事、在来線で単線区間の肥前山口-武雄温泉の複線化などを含めると、総事業費は約5000億円にのぼる。一方で、国交省の試算によると、現行で最速1時間48分の博多~長崎の所要時間は、開業後は1時間20分。30分未満の短縮効果のために5000億円を投じることを疑問視する声も根強い。
FGTは九州内でしか走れない可能性
これに加えて、肝心なFGTの開発が難航している。FGTの開発は鉄道建設・運輸施設整備支援機構が担当しているが2014年には走行試験中に車軸で不具合が起きて試験が中断。16年11月に開かれた国土交通省の評価委員会でも「耐久走行試験に移行する条件は満たされていない」と判断。17年夏に改めて委員会を開き、耐久走行試験の可否を判断することになっている。
安全面に加えて、経済面での懸念も出ている。FGTは従来の車両に比べて構造が複雑なため、仮に完成したとしてコストは3倍程度になるとみられているためだ。これに加えて、フル規格の九州新幹線鹿児島ルートは新大阪まで乗り入れているのに対して、FGTは九州内でしか走れない可能性が高い。博多~新大阪の山陽新幹線の最高速度は時速300キロだが、FGTの最高速度は270キロ。ダイヤ編成上の問題から、JR西日本が乗り入れに難色を示しているためだ。こういった点を念頭に、JR九州の青柳俊彦社長も記者会見で、繰り返し安全性や経済性への懸念を口にしてきた。
そういった中で、日本経済新聞が6月14日の朝刊で、JR九州がFGT導入を「断念する方針を固めた」、朝日新聞も同日朝刊で「断念する方向で検討していることがわかった」と相次いで報じた。
仮に、この「断念」の検討が本格化すれば、JR九州が取り得る選択肢は大きく(1)新鳥栖~武雄温泉もフル規格で整備する(2)「暫定開業」のまま「リレー方式」を続ける、のふたつだとみられる。前者は数千億円単位の負担増、後者は短縮効果が10分程度に小さくなる結果を招くことになり、いずれも地元の反発を招きそうだ。