上野動物園(東京都台東区)のメスのジャイアントパンダ「シンシン」が、赤ちゃんを出産した。同園としては5年ぶり。直後から「日本中が歓喜に包まれている」といったトーンの全国的な報道が続いている。
ジャイアントパンダは繁殖が難しく、一時は「絶滅危惧種」に分類されるほどだった。それでも、和歌山アドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)のように、1~2年に1回のペースでジャイアントパンダが誕生している園もある。
繁殖期が短く、自然交配による妊娠・出産が難しい
シンシンは2017年6月12日、赤ちゃん1頭を出産した。J-CASTニュースの13日の取材に答えた上野動物園職員によると「母子ともに元気」。ただ、ジャイアントパンダの子は一般的に小さな体で生まれるため、「生後1週間ほどは予断を許さない状況で、慎重に観察していきます」という。今回のシンシンの子は体重約150グラム。また、前回12年に誕生した赤ちゃんは生後6日で死亡した。
ジャイアントパンダはかつて、絶滅のおそれがある動物を分類する国際自然保護連合(IUCN)の「レッドリスト」のうち、「絶滅危惧種(EN)」に含まれる動物だった。16年9月に危機ランクが1つ低い「危急種(VU)」に分類されたが、公益財団法人・世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の公式サイトによると、同年同月時点で全世界の個体数は1864頭で依然少ないという。
ジャイアントパンダは繁殖期が短く、自然交配による妊娠・出産が難しい。上野動物園職員によると「メスは1年間で繁殖期が3日ほどしかなく、そのタイミングに合わせて交配しないと以後1年は妊娠できません」という。11年に中国から来園したシンシンは翌12年、ちょうど繁殖期に交配でき、妊娠・出産に至った。13年も繁殖期に交配できたが、妊娠の兆候を示すも実際にはしていない「偽妊娠」と診断された。14~16年は発情の徴候が認められなかった。
うまく妊娠・出産を繰り返しているジャイアントパンダもいる。和歌山アドベンチャーワールドでは、自然交配のみでたとえば、12年に1頭、14年に双子、16年に1頭が生まれたという。同ワールドでは、2000~16年の間に全15頭が生まれ、そのうち自然交配のみだったのは8頭。あとの7頭は自然交配と人工授精の組み合わせだったため、そのどちらで妊娠・出産に至ったかは分からないという。
自然交配と人工授精の組み合わせで00年に生まれたメスの「良浜(らうひん)」は当時、日本国内では12年ぶりのジャイアントパンダ誕生だった。さらにその良浜は08年、日本生まれのジャイアントパンダとして国内で初めて出産した。
「上野のパンダだけこんなにニュースになる」
和歌山アドベンチャーワールドの広報担当者はJ-CASTニュースの取材に、「パンダ同士の相性や個体差もあり、うまく出産を続けられている理由は一概には言えません。飼育環境も、他の動物園とそれほど大きな差はないと思います」と話す。何頭かは、自然繁殖の共同研究を進める中国の「成都ジャイアントパンダ繁育研究基地」に渡り、現在5頭が飼育されている。
上野動物園のシンシンは出産直後から全国的なニュースとなっているが、ツイッター上では毎年のように出産している和歌山と比較し、取り上げられ方に差を感じる声が少なくない。
「上野のパンダだけこんなにニュースになるのに違和感を覚えますが(和歌山にもパンダはいるのに・・・)」
「パンダだシンシンだと盛り上がってるけど、和歌山アドベンチャーワールドももっと取り上げて欲しいなー」
「シンシン出産トップニュース 和歌山のパンダももっと取り上げてよ、ってのと 和歌山のパンダ並みにほっといてあげてよ」
「パンダ出産、動物園の会見を中継したメディアもありました。一方、和歌山アドベンチャーワールドでは15頭が生まれ育っています」
和歌山アドベンチャーワールドの担当者は「出産数だけでは測れません。どちらの園でも出産は嬉しいニュースです」と話す。また、16年の誕生時、パンダの赤ちゃんの名前を公募したところ、約5万通の応募が届いた。その中から「結浜(ゆいひん)」という名前がつけられた。「当園でも、生まれるたびに報道していただいておりますし、お客様もかなり多くご来園いただいています」と担当者は話していた。