トヨタ自動車は、わずかに保有していた米電気自動車(EV)メーカー、テスラの全株式を2016年末までに売却し、提携関係を解消した。テスラ株の売却益は500億円とも1000億円ともいわれており、純粋な投資としては成功だったとはいえる。しかし、事業面で得るものは少なかったようだ。17年6月3日、各メディアが報じた。
トヨタがテスラへとの資本提携で合意したのは2010年5月。テスラはこのとき既にEV「ロードスター」を世に出し、注目されてはいたが、まだ「数あるベンチャー企業の一つ」という位置づけに過ぎなかった。その企業に、5000万ドル(約55億円)を出資し、3%強の株式を持つことにした。
関係が大きく崩れた2014年
豊田章男社長は当時、「高い技術力、モノづくりにかける強い思いやひたむきな姿勢に、テスラの無限の可能性を感じた。テスラから、チャレンジ精神や意思決定のスピード、柔軟性を学び、新たな未来に向けチャレンジしていきたい」と褒めちぎった。テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)も「トヨタのもつ車両の開発・生産に関する見識を学び、取り入れていきたい」と喜び、まさに相思相愛の関係だった。
両社はテスラ製電池を積んだ多目的スポーツ車(SUV)「RAV4」ベースのEVを共同開発。2012年に米国で市販するなど、当初は協業が形になった。
だが関係は急速に冷えていく。大きく崩れたのは2014年。トヨタが水素を燃料にした燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を発売した年だ。トヨタが次世代カーの中心と位置づけるFCVに対し、マスクCEOは「水素社会はばかげている」「未来はない」などと公然と批判。一方のトヨタも、保有株の一部を売却し、協業関係は事実上終わっていた。
その後のFCVとEVとの次世代カーの覇権争いは、今のところEVが圧倒的に優勢だ。各国の環境規制強化を背景に、日本の日産自動車に加え、テスラや米GM、独BMWなどがこぞって市場に投入。急速充電器などインフラの整備も着々と進んでいる。