東京都議会議員選挙がまもなく告示されるのを前に、作家(日本文明研究所所長、大阪府・大阪市特別顧問)で元都知事の猪瀬直樹氏(70)がJ-CASTニュースのインタビューに応じた。
後編では、知事時代、「都議会のドン」内田茂都議(78)擁する自民党東京都連と対立した猪瀬氏が、今回の都議選をどう見ているのかを聞いた。
選挙ポスター1万枚を送り返してきた自民党都連
――猪瀬氏が当選した2012年12月の都知事選では、石破茂・自民党幹事長(当時)が支援を発表していたと認識しています。自民党本部と自民党東京都連、それぞれとの関係をお聞かせください。
猪瀬直樹氏 選挙で政党が正式に協力するのは「公認」と「推薦」のみです。私は都知事選で公認も推薦も受けていません。それでも自民党本部の石破氏はぜひ頑張ってくださいと仰っていましたが、自民党都連は最後の最後まで反対していました。
自民党は自治体での活動を各都道府県連に任せています。自民党本部と都連は異なる組織で、東京の実働部隊は都連です。私の都知事選の時は都連に選挙ポスターを張ってくださいとお願いしたところ、およそ1万枚すべて送り返されました。
都連と反目するきっかけになったのは私が副知事時代の07年、予定されていた参院議員宿舎建設を必要がないと判断して中止したことでした。建設予定地が「都議会のドン」内田茂都議の本拠地である千代田区だったので怒りを買ったのです。その流れから基本的に都連は私を支持せず、私が都知事に就任しても所信表明でヤジばかりが飛んできました。
――都議会との関係が影響して都政運営が難しくなったと。
猪瀬氏 国政との関連での浮き沈みもあります。私が知事在任中の13年6月に行われた都議選は、国政が民主党(当時)から自民党に政権交代した半年後で、09から12年まで続いた民主党政権はもうこりごりだという風潮がありました。都議選では自民党の立候補者が全員当選しました。全127議席のうち、自民党と公明党で82議席を占めました。都議会自民党が舞い上がり、都議会で私を助けてくれる人は誰もいないような状況になりました。それで気に入らない私を追い出そうとし、結局私は、5000万円の借入金を受けたことでの混乱の責任を取る形で、13年12月に辞任することになりました。
「傀儡政権状態を解消し、都政を本来の姿に戻すのが今回の都議選」
――2016年の都知事選での言動をみると、猪瀬氏は小池百合子知事(64)誕生に期待をかけていたと見受けられますが。
猪瀬氏 都知事選の告示日直前に受けた経済情報サイト「NewsPicks」のインタビューの反響はすさまじいものでした。インタビューの中で私は、自民党都議として在任中に内田氏に追い詰められて自ら命を絶った樺山卓司氏の遺書を公表し、都議会の権力構造を明らかにして、「ドン」内田氏の存在を浮き彫りにしました。闇の中にいた「敵」を見える形にしたことで、SNS上で大きなうねりを生み出しました。小池氏も「ドン」が問題なんだと発信し、自民・公明の候補や野党統一候補を圧倒していきました。選挙戦終盤には、樺山氏のご遺族が小池氏の応援に立ちました。それと、都は、都知事選まっただ中の7月下旬に築地市場の解体工事の入札と発注を行いましたが、状況的におかしいでしょう。こういった事実があるという状況証拠を出していくことで、小池氏への投票行動につながっていったのです。
――その小池知事就任後初の都議選が6月23日に告示、7月2日に投開票されます。この都議選の意義はどのようなところにあると考えていますか。
猪瀬氏 まず、舛添要一知事の時に、それまで普通にやってきたことが都議会との関係で「傀儡政権」のようになりました。その傀儡政権状態を解消し、都政を本来の姿に戻すのが今回の都議選になります。
議会の与党から首相が選ばれる国政の議院内閣制は予算が通りやすい構造になっていますが、地方自治体は首長と議会議員を別々に選挙する二元代表制です。都知事と都議会与党が対立する場合もあり、そうなると予算だって通りません。この点で言うと、小池知事に勢いがなくなってきた場合に備えて、代表を務める都民ファーストの会(都民ファ)は協力政党・会派を含めて過半数を取っておかないといけません。
都民ファと選挙協力を進める公明党は現在23議席で大きくは変わらないでしょうから、都民ファーストの会が(合わせて過半数の64議席に達する)41議席あればいいですが、ギリギリのところでしょう(編注:都民ファは6月1日時点で公認候補者数は48人)。でも、都民ファと公明で64議席に届かなくても、他の「反自民党」の少数勢力が是々非々で都民ファにつくと考えられます。
「公明党は変わり身が早い」
――都民ファが公明党や協力勢力と合わせて過半数を取れたら、小池知事の都政は安泰ですか。
猪瀬氏 ただ、なるべく都民ファ単独で議席を多く確保したい。公明党がいつどう動くか分からないからです。公明党は都議会でも自民党と連立していましたが、16年の都知事選後、「どうも小池知事の方が優勢だな」となったら小池知事側につきました。都議選後、小池知事が劣勢になればまた自民党都連とくっつく可能性はあります。
16年6月に舛添知事が辞める時もそうです。このままでは7月の参院選が危ないと思った公明党が、それまで支持していた舛添知事に引導を渡しました。自民党都連の内田氏は当時、まだ舛添氏に続けてもらおうと考えていました。そういう点で公明党は変わり身が早い。
また、この都議選は基本的には「小池選挙」です。16年の都知事選と同じ「自民党都連VS小池氏」という図式があります。都民ファはある意味「寄せ集め」ですが、「風」つまり勢いがあります。09年の衆院選は自民党への失望感から民主党が勢いで政権交代を勝ち取りましたが、今回の都議選の都民ファの勢いは、この当時の民主党と似たものを感じます。
――自民党都連は、この都議選で大きく力が落ちるのでしょうか。
猪瀬氏 そうでしょうね。現状、公明党が離れたこともあって自民党が過半数を取ることはありません。野党に転落したら利権がなくなり、影響力が大きく落ちます。
――内田氏の影響力はどうなりますか。都議選には立候補せず、自民党候補者として中村彩氏を立てています。
猪瀬氏 代理ですよね。これまで内田氏が出ていた千代田区選挙区は、今回は都民ファの樋口建史氏が優勢です。でも、自民党候補に一定の票がいけば内田氏の面子は保たれます。
内田氏は2月の千代田区長選で自民党の候補が敗れた後、「都議選には立候補しないが、政界は引退しない」とはっきり言っています。都連幹事長も辞任しましたが、今の都連幹事長の高島直樹氏と内田氏は関係が深い。影響力は残すでしょう。
猪瀬直樹氏 プロフィール
いのせ・なおき 1946年長野県生まれ。作家。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。96年『日本国の研究』(文春文庫)で第58回文藝春秋読者賞受賞。
2002年、小泉純一郎首相(当時)により道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命。06年には東京工業大学特任教授就任。07年に石原慎太郎・東京都知事(当時)のもと東京都副知事に任命。12年12月に東京都知事に就任し、13年12月に辞任。
現在、財団法人日本文明研究所所長、大阪府・大阪市特別顧問を務める。
著書は『昭和16年夏の敗戦』『天皇の影法師』(いずれも中公文庫)、『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』(いずれも文春文庫)など多数。近著に『民警』(扶桑社)、『東京の敵』(角川新書)。