筋肉がこわばり動作が遅くなるなどの症状が現れ、寝たきりになるケースもあるパーキンソン病をめぐり米国で、低脂肪乳製品との関連を指摘する研究報告が発表された。推奨量以上の摂取を続けると発症リスクが高まる可能性があるという。
過去に行われた大規模な調査を利用し分析したものだが、研究者らは因果関係を指摘したものではないので、食生活の見直しを迫るものではないとしている。
米ハーバード大研究グループが報告
研究を行ったのは、米ハーバード大学公衆衛生大学院のキャサリン・ヒューズ氏らのグループ。2017年6月7日付で米神経学会の学会誌に論文を発表した。
低脂肪の乳製品は、肥満の防止や問題が指摘されている飽和脂肪酸の影響で、全脂肪の製品からシフトする消費者が多く市場は拡大しているという。
米パーキンソン病財団によると、米国内の患者数は100万人ほどとみられ、毎年、約6万人の成人が同病と診断されているという。
研究グループでは、これらの関係を調べるため、約25年間にわたり米国で実施された調査を使い分析。「看護師健康調査」(1984~2010年)と「医療従事者追跡調査」(1986~2010年)で、前者から女性8万736人、後者から男性4万8610人、合計で約13万人のデータを調べた。
これらの調査では2年に1度、健康に関してアンケートを実施。また、4年に1度、食事について回答を求めている。分析では食事についての回答から、牛乳やチーズ、アイスクリームなどの乳製品摂取の際に低脂肪か全脂肪のどちらを選んだか、また食べる頻度を調べた。2つの調査の回答者の1036人がパーキンソン病を発症していた。
スキムミルクや低脂乳を毎日摂取
分析ではまた、摂取量からの分析も実施。乳製品を毎日3人分以上を摂取した人たちは、1人分以下の摂取の人たちと比べ、パーキンソン病の発症リスクが34%高かった。
乳製品のなかでも、牛乳の摂取と同病の発症リスクの関連が顕著。スキムミルク(脱脂乳)か低脂肪乳を毎日1人分(推奨量)以上摂取した人たちは、1週間に1人分以下の摂取にとどまった人たちと比べて、発症リスクは39%高かった。
摂取推奨量は、米保険福祉省(HHS)と同農務省が16年1月に公表した「米国人のための食生活指針(2015-2020)」にあり、乳製品のは1日あたりコップ3杯ほど(牛乳では約711ミリリットル)。
米国の牛乳は、乳脂肪分1%のものが低脂肪乳。脱脂乳にはスキムミルクのほか、ファットフリーミルク、ノンファットミルクがある。日本では乳脂肪分0.5%以上1.5%以下が低脂肪乳。
論文でヒューズ氏は「研究は、低脂肪ミルクを多く摂取すると病気のリスクが増すことを示せた」とする一方、報告は調査から得られたデータであり、因果関係を示すものではないと断っている。
これまでにも乳製品とパーキンソン病の関連を指摘する研究報告が行われているが、製品中の農薬などの関与も示唆されている。ヒューズ氏はまた、別の研究で腸内細菌のかかわりが指摘されていることに言及し「さらに研究する必要がある」と述べている。
厚生労働省のウェブサイトによると、パーキンソン病の原因は現段階では不明。家族性パーキンソニズムの原因となる遺伝子異常が関与することや、環境因子が影響することも明らかとなっているという。国内の患者数は約10万人と推計されている。
発症年齢は50~65歳に多いが、高齢になるほど発病率が増加する。40歳以下で発症するものは若年性パーキンソン病と呼ばれ、この中には遺伝子異常が明らかにされた症例も含まれる。