「20年ぶりに投票に行った。彼は政治家じゃないからだ」
この辺りはトランプ支持率がとても高いにも関わらず、支持者はそれを知られたくないと思っている人が多いのだろうか。この町で感じたことを、私は尋ねた。
「とくに昨年の大統領選の前はそうだったわ。普通なら支持党の看板を家の前に掲げたりするのに、今回はあまり見なかったもの」。妻が答えた。
トランプ大統領のロシア疑惑については、どう感じているのか。
「プーチンには要注意だ」と夫がつぶやく。
「真実はわからない。でも別に懸念はないわ」と妻。
ニュース番組は、保守的で共和党寄りといわれるFOXを見ているのだろうか。
「そうだよ。FOXは他のテレビ局と違って、中立なスタンスを取ろうとしている。コメンテーターの発言も興味深い」とふたりは口をそろえる。
その後、キリスト教系幼稚園の前で、孫を迎えに来ていた男性(51)と話した。彼は私に怒りをぶちまける。
「俺はこの前の大統領選で、20年ぶりに投票に行ったんだ。トランプは政治家じゃないからだよ。政治家はきれいごとばっかりで、もううんざりだ。8年間のオバマ政権で、ますますひどくなった。
フードスタンプ(低所得者向けの食料費補助)をもらっているのに、ベンツを乗り回しているやつらがいるんだ。だから、本当に助けが必要な人に行き渡らない。社会保障だって、不法移民まで面倒を見るなんて、おかしいじゃないか。俺たちはちゃんと働いて、この国に貢献してるんだ」
彼と別れ、この町で評判になっている家があると聞いて、行ってみた。すると、その家の主がちょうど表庭で、何やら作業をしているところだった。
(この項続く)(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社
のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓
を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1
弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法
の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育
事情」(ともに岩波新書)などがある。