英国の下院議員選挙(定数650)は2017年6月9日朝(英国時間8日夜)に投票が終了。開票作業が進むなか、メイ首相率いる与党・保守党が第1党は維持しつつも、過半数には届かないことが確実となった。
こうした状況を受けて、9日早朝(日本時間)の外国為替市場で英ポンドが急落した。英国の政治情勢に対する不安が高まったためだ。ただ、日本のFX投資家は比較的落ち着いていたようで、2016年6月のブレグジットの教訓が生きたとみられている。
英総選挙、与党保守党の過半数割れに
2017年6月8日の英総選挙の結果、メイ首相率いる保守党が議席数を減らし過半数を割り込むことが確実になった。日本時間9日14時すぎ、BBCなどの英メディアが報じた。
「過半数割れ」の観測が漏れはじめた9日早朝には、外国為替市場で英ポンドが急落。ポンドは対円では6時すぎに1ポンド=140円を割り込み、17年4月下旬以来の安値を付けた。 外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は、「ポンドは(9日15時ごろでも)ジリジリ売られていますね。ポンド安ドル高の状況といえます。ただ、円も(米ドルに対して)売られぎみなので、ポンド円相場でみると、それほど大きな値動きではありません」と話す。
いったんはポンドを売って、ドルや円を買おうという動きが高まったが、9日午後の東京外国為替市場は比較的落ち着いている。
今回の総選挙は、メイ首相がEU離脱交渉に向けて政権基盤を強化するため、4月中旬に実施を決めた。当初は与党・保守党が過半数を超えて圧勝するとみられていたが、労働党の激しい巻き返しから、「過半数超え」に黄色信号が点滅していた。6月に入ってテロ事件が相次ぎ、英国社会に不安が広がったこともある。
そうしたことから、「昨年(2016年)6月のブレグジット(国民投票)のときと、状況が違います。選挙は水モノではありますし、読みが難しいのですが、今回はおおよそ想定内に収まったようです。ブレグジットのときと大きく違います」と、神田氏はいう。
英ポンド、「乱高下しやすい状況に」
前出の外為どっとコム総研の神田氏は、「FX投資家が、激しい値動きのある相場に対する備えができるようになりました。今回もポンドが急落しましたが、それによって大きな損失を被った投資家は少ないようです」とみている。
2016年6月の英国がEU離脱を決めた国民投票のときは、事前の予想と違っていたため大きな損失を出した投資家も多かったが、神田氏は「そのときよりも、数段、上手にポジションを管理できています」と、「ブレグジットの教訓」が生きていると指摘する。
選挙前には、保守党の勝利を予想する世論調査が多かったが、次第に楽観論が後退したこともあり、ポンドに対するポジションを手じまいして「様子見」を決め込む投資家が多かったという。
とはいえ、今回の選挙結果、メイ首相率いる与党・保守党が過半数を割り込む見通しとなったことで、英ポンドが引き続き「売られる」状況にあることには変わりない。
EUからのハードブレグジット(強行離脱)を掲げるメイ首相は、この総選挙で保守党が単独過半数を維持して勝利するというシナリオを描いていた。それが崩れたことで、EU離脱に影響が出てくることは必至だ。英メディアの一部では、メイ首相の求心力の低下を指摘する論調や、再選挙の可能性を示唆する声もある。
神田氏は、「いずれにしても、不安定要素は多い。(ポンドが)一方的に売られることは考えられませんが、乱高下しやすい状況にあることは間違いないです」とみている。