近年、世界的に近視人口が増加しているのは、外にいるときにしか浴びることのできない「バイオレットライト」が不足しているためだった――。
昨年12月に発表され話題になった研究結果が、2017年5月25~27日に開催された第17回抗加齢医学会総会で、研究を行った慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授によって改めて紹介された。
すでにバイオレットライトを浴びることで近視が抑制されるか、臨床試験にも取り組んでいるという。
外で遊ぶ子供は近視になりにくい
特定の波長の光が健康に影響を与えるといえば「ブルーライト(380~400ナノメートル)」が思い浮かぶ。目への負担だけでなく、不眠やうつ、高血圧、肥満、糖尿病リスクなどを高めるという。「バイオレットライト(360~400ナノメートル)」は、それより波長が短く、屋外環境光にのみ含まれる光だ。
坪田教授がバイオレットライトに注目したきっかけは、高度近視の治療として眼内レンズ(水晶体の代わりに目の中に挿入するレンズ)を入れた患者の中で、近視の進行度に差が出ていたことだったという。レンズの性能などには差がないにも関わらずなぜ進行度がことなるのかを検証したところ、眼内レンズがバイオレットライトを通すか、通さないかの違いがあったのだ。
近視は眼球が異常成長して長く伸びてしまい、網膜にピントを合わせづらくなってしまった状態だが、坪田教授の詳細な分析の結果、バイオレットライトが網膜に入ると「EGR1」という遺伝子が活性化し、異常成長を抑制していることが確認された。
「1日2時間以上、外で遊んでいる子どもは、両親が近視でも近視になりにくいということは世界中の近視研究者にはよく知られていたことでした。屋外光にのみ含まれるバイオレットライトを浴びている時間の違いだったと考えると、長年の疑問にも答えが出ます」
ただし、外で遊ぶと近視の予防になると言われていたが、近視になると外で遊んでいても進行抑制効果が少ないと言われていたともいう。この疑問に対して坪田教授はこう説明している。
「コンタクトレンズはバイオレットライトを一部通しますが、メガネは通しません。今までは眼科医は『メガネをかけても近視は進みません』と答えていましたが、バイオレットライト仮説が正しければ、間違っていたことになります」
バイオレットライトを浴びるツールを開発中
坪田教授は国内での失明要因として近視が5位になっており2050年には1位になる、高校卒業時の近視率が8割に達するといったデータに基づき、近視の増加は目の異常のパンデミックともいえる状態だと指摘。増加に歯止めをかけるため、バイオレットライトの有効性の検証を深めていく考えだ。
しかし、2時間以上外に出ればいいという単純な話ではない。坪田教授によると。50年前の小学生は平均3.5時間外で遊んでいたが、20年前には37分まで減少。高校生は10分となっており、とても外に出る時間を増やせるような状況ではない。また、仮に室内で窓際など太陽光が差し込む場所にいたとしても、窓を閉めるとバイオレットライトが完全に遮断されてしまう。
そこで坪田教授は自動的に点灯してバイオレットライトを照射するメガネや、バイオレットライトを点灯するLEDライトなどを開発。家の中にいてもバイオレットライトを浴びることができるこれらのツールを利用することで近視抑制効果があるか、臨床研究に取り組んでいる。また、メガネメーカーと共にブルーライトはカットしバイオレットライトを通すメガネを発売する予定もあるという。