日本商工会議所、経済同友会との対応の違い
東レ出身の現在の榊原会長は米倉経団連が政権との関係を悪化させた反省から、関係修復に最大限の注意を払った。2014年の会長就任とともに政治献金も再開した。その努力の結果からか、かつて経団連会長の定番ポストだった経済財政諮問会議の民間議員に復帰したほか、十数年ぶりに財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の会長を務めるなど、財界トップとして政府の審議会の主要ポストを占めるようになった。70周年の記念パーティーで、安倍首相が「経団連には政府の重要な政策の検討において、大いに貢献いただいている」と絶賛したほどだ。
しかし、榊原会長と安倍政権との距離感は評価が分かれる。2016年6月、安倍首相が消費税増税の再延期を発表した際、榊原会長はそれまで財政再建の観点から増税を求めていたにもかかわらず、首相の判断に理解を示した。日本商工会議所の三村明夫会頭と経済同友会の小林喜光代表幹事が財界トップの立場から批判したのと対照的だった。
直近では安倍首相が2017年5月、憲法9条をめぐり自衛隊の存在を明確にするよう改憲を主張した際にも、榊原会長は「安倍首相が明確な方向性を出されたことは、経済界としても重い発言と受け止めている」などと即座に呼応し、支持する考えを示した。春闘で経団連が長年拒否していた賃上げについても、榊原会長は安倍首相の要請に基づき、2017年まで4年連続で賃上げを実現し、「官製春闘」と揶揄されている。
「官製春闘」にせよ、ベースアップを含む4年連続の賃上げはサラリーマンらには朗報に違いない。しかし、それにもかかわらず、日本経済は消費が上向かない。アベノミクスは「デフレ脱却」を実現できないまま、隘路に陥っている。
榊原会長は「私は政府の中に入り、経済界の立場でいろんな提言をすることができる。そのいくつかは実現に漕ぎつけている」と自賛するが、「経団連は安倍政権と接近しすぎた結果、何でも追認せざるを得ない立場に陥っている。大所高所から政権に物申す本来の役割はどこに行ったのか」との批判はマスコミだけでなく、財界の内部でも渦巻いている。
かつて経団連会長は靖国参拝で日中関係を悪化させた中曽根康弘首相や小泉純一郎首相に対し、国益を最優先に参拝しないよう直言するなど、財界トップとしての役割を果たしてきた。しかし、今の榊原経団連を見る限り、安倍一強の自民党政権にモノ申す役割は期待できないようだ。